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第56話 死

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    週刊「帰還限界点 連載小説」

☆============================= 第56号 (2009/02/26)=====


『生誕、死、そして消滅』(第九話 -3- 死)



『全員、生き残れ』

新堂真はそう言った。そして誰も、死ぬつもりなどなかった。
彼らの纏うE‐9の装備は確かに彼らの身を守っていたし、
研修時に身につけた戦闘の技術は、実践において役立っていた。
機械の天使達が、一人、また一人、意志を持たぬ機械の塊へ
と化し、地に倒れていく。

「……しかし……こんなに居ちゃあ、きりが無いですね……」

他の者達よりも研修期間の短かった妙崎は、しかし持ち前の
頭脳を生かしてか、うまく戦っていた。

「ああ、まったくだ」

同意する新堂の後方では、東城が、くそっ、と毒づきながら
も敵をまた倒していた。

「……っ……!」

ぴたり、と一瞬、東城の動きが止まった。

「どうしたの? 東城くん?」

御名神の問いにも反応せず、彼は天を仰ぐ。彼らの周囲の機
械製天使達も、同様に上方を見る。
そして残されたDWチームの面々も、それに倣った。
鳥のような影が、彼らの上を通過していった。

「何っ……」

「何あれ? ……人?」

「いや、違う……見ろ、翼だ」

「……天使?」

「あれは………」

空を舞う飛行者は、緩慢な動きで、下降を始める。
新堂は、古びたカセットテープに録音されたような、歪んだ
賛美歌が聞こえてきた気がした。

「魔王だ」

黒い翼をはためかせ、魔王は降臨した。
地上に近付いた彼は、迷わずに、一人の人間の前に立った。

「これが……サタン、だと?」

魔王……サタンを眼前にして、東城は眼を見開き、唇をわな
なかせていた。
もっとも、そうした姿は、戦闘用の装備の内部に覆い隠され
ており、誰にも見ることは出来ない。

「なんてことだ……」

新堂は、苦々しく顔を歪めた。

「父親に、似すぎているな」

父親、それはサタンをこの世に誕生させるため、どうしても
必要だった存在。
それは、東城神詞。

「……っ」

漆黒の髪の長さや、身につけている衣服、それにその右眼が
鮮やかな赤色をしていることを除けば、東城神詞の前に立つサ
タンは、彼そのものであった。

「始めまして。父上……」

この世に生を受けて間もない魔王は、しかし生まれながらの
魔王であった。その眼にあるのはなみなみと溢れんばかりの自
信、威厳……。

「さよなら」

自分自身の声とさえ思える声だったが、東城の耳には、何故
か藤守ミサヲの声が重なって聞こえていた。

彼は、世界から遮断されている。
嗚呼、誰かが何か叫んでいる。

『……ち……ょう!……』

何だ? 何を云っている?
東城には、判らない。

『東城くんっ!……』

自分のことを呼んでいるらしい。
何故だ?
何だか記憶が無い。
待て。少しずつ思い出してみよう。そうだ、戦っていた。鋼
鉄の天使達と。それで、何かが飛んでいた。
サタン?
……おれはそいつの父親……サタンは云った。

『始めまして、父上……』

……それから……

『さよなら』

さよなら、とは、どういうことだ?

『東城!』

「東城!」

突然、彼は彼一人の遮断された小さな世界から、元いた世界
へと引き戻された。

「……あ?」

何よりも先に感じたのは、熱さだった。
そしてそれは一瞬にして痛みに変わる。
彼の体から、何かが引き抜かれた。
サタンの左手の五指の爪が、鋼鉄のような重厚な輝きを放ち
、一メートル程の長さにまで延びていた。その表面が、てらて
らと赤く光っている。
重厚な装備は貫かれ、穴が開いていた。
左胸が。
鎧の中で、血が吹きだした。
思わず、装備を解く。三重のジェル層は消え、骨組みはガシ
ャガシャン、と地面に大きな音をたてて落ちた。

「さ・よ・う・な・ら」

自分の遺伝子を受け継いだ唯一の彼の子供が、笑いながら自
分にその爪を向けた。避ける余裕は無く、もはやその気も失せ
ていた。
嗚呼。

『父親に、似すぎているな』

新堂の言葉が過ぎる。

『そうでもないぜ……新堂……』

感覚は、もうどこかへ行ってしまった。彼にあるのは、外界
から遮断された意識のみである。

『ちゃんと、ミサヲにも似ていやがる……』

最後に見た、子供の笑顔は、そっくりであった。子供の母親
に。
藤守ミサヲに。

『笑うときのその癖、同じじゃねーか……』

脳裏をかすめたのは、右眼よりも左眼をより細める、藤守ミ
サヲの笑い方。
彼が最期に思ったのは、結局、その女のことだった。

DWチーム所属、元技術開発部三課、東城神詞、死亡。

「東城ぉっ……!」



(つづく)

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