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第52話 武装

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    週刊「帰還限界点 連載小説」

☆============================= 第52号 (2009/02/13)=====


『三人』(第八話 -7- 武装)


「……時間がない。あずみ、E‐9を急げ。」

しかし持ち前の立ち直りの早さをみせつけ、再びいつもの新
堂にもどりつつあった。指示に反応し、あずみはナビゲーショ
ンルームの床に跪く。そして、コンコンと軽くノックをし、軽
快にキーワードを紡ぎ出した。

『もうすぐお茶の時間ね。真は紅茶が大好きなのよね~。
でもね、無粋な泥水は大嫌いなの。
コーヒーと名の付く物は意地でも飲まないのよ。
でも聞いてよ。
キャラメルマキアートとキャラメルフラペチーノ、あとモカ
フラペチーノは飲めるって言うのよ。あれだってコーヒーなの
にね。』

すると、床に赤い光線が走り、〈EMERGENCY〉の文
字が浮かび上がる。光線が文字の上に人がいないのを認識する
と、音も無く床がゆっくりと持ち上がったのだ。そこには人一
人が入るほどの大きさのツールボックスが一〇ケース収められ
ていた。

「真ぉ、おっけぇよ。梨華ちゃん達にも通信出したよ~」

あずみのあっけらかんとした態度とそのキーワードに一同脱
力したのは言うまでもない。
しかしそこはそれ、いいかげん彼女の行為に慣れたのか、現
状が和みを与えてくれないためか、皆の立ち直りも早くなって
いた。

「了解した。
凪喪君、現時点よりDWプレーヤー主要メンバー全てのナビ
をしてくれ。
集結ポイントは〈神代医大QZLの病室〉だ。
他のメンバーは対E‐9装備着用。」

新堂の指示が再び飛ぶ。凪喪憂子以外のメンバーは席を立ち、
コンテナに手を掛け装備を取り出す。
それは、俗に言うパワードスーツと呼ばれるものだ。しかし、
見た目には機械の塊にしか見えず、戦闘用とはかけ離れた外観
となっていた。おそらく、初めて見た者は眉間にしわを寄せた
事だろう。実際彼らも研修時にその疑念を抱いていた。だが、
今ではそれが自分の身を護ってくれる事に疑いは無かった。
機械の塊の中に、両の手形と仮面様の窪みがあり、そこに手と
顔面を入れることで封印が解かれる。機械は息を吹き返し、ま
るで生きているかのように東城らの身体を被う。しかしその表
面は、未だ機械部や関節が露となっている。

「〈アストマ内層〉展開」

機械音声がなると同時に、ルビーのような赤色のジェル状の
物質が全身を被う。

「〈エテューマ中層〉展開」

続いてエメラルドグリーンのジェルが吹き出し、赤を覆い隠す。

「〈アッシャー外層〉展開」

最後に現れたのは、鏡と見紛うばかりの白銀色をしたジェル
であった。それは瞬時にして一つの形となった。
表面は一つの突起も無く曲線を描き、鏡の様に風景を身体に
映し出す。それはレーザー等の光学兵器を反射させる事が目的
なのである事は自明だった。また幾層にも張られたジェル層は、
物理衝撃に強い耐性を見せる事だろう。その内層ジェルも念の
入ったもので、エーテル非伝導物質であるエテューマは、エー
テルを主とする魔法、魔導兵器を無効化させるものであり、ア
ストラル非伝導物質であるアストマは、アストラル系…すなわ
ち精神に直接影響する魔法等を無効化させるものであった。さ
らにそれらに覆われ、背中に大きくせり出した部分は〈EAジ
ェネレーター〉であり、対E‐9装備の全てのエネルギー源と
なっている部分であった。そう、ここまでの装備は対人間では
必要がない。まさしくAシリーズに対抗する為だけに造られた
ものであった。

かくて、新堂らDWチームの面々は第三勢力となった。
ルシファーの力を利用し、人が人の意志を持ったまま生きて
いる世界を求め、神の意志代行者たるミカエルと神敵サタンの
戦いに生き残る為、参戦する事となった。
新堂が持つディスクをDWシステムにアップする事で全ての
戦いが動き出す。
新堂は思う。世界の形が理そのものから変わってしまうスイ
ッチが新堂自身の手に握られている事を。たかだか数年前なの
に、地方出版社の物書きだった頃をひどく懐かしく感じている
事を。

『時が移り、所が変わろうとも、人の営みは変わらない。』

そんな言葉が通用する時代が終わろうとしている事を。今まで
自分の目的以外無関心であった新堂ですら、いくばくかの想い
が込み上げてきたとでもいうのか。いや、そんな事は無い。そ
れがなんだというのだろう。新堂自身、そんな想いはとうの昔
に捨てていた。目的達成の為なら世界が変わろうと知った事で
はない。

「始めよう。我々が生き残るために。」

『そして、弥生ともう一度出逢う為に…』

新堂から、最後の指示が発せられた。

「全員、生き残れ。」

ディスクがドライブに飲み込まれ、カリカリと読み込み音が
響く。それはDWのみならず、現実世界をも巻き込んだ大きな
うねりとなる歯車の音に聞こえた。
始めは、たった三人だった。三人は三人に出会い、一人は幾
千の駒を手に入れ、一人は幾千の母となり、一人は幾千の同胞
を得る事となる。
物語は、今ようやく動き出す。



(第八話 三人 了)

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