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第23号 『未だ見ぬ災厄の降臨』(第5話)

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    週刊「帰還限界点 連載小説」

☆============================= 第23号 (2008/12/01)=====


『未だ見ぬ災厄の降臨』(第5話)



「早く時間が……」
彼女は、ずっとこの暗い場所にいて時が来るのを待っている。
精神体となり、体と意識を切り離し待つことが彼女の精一杯
だった。
今は、ただひたすら〈待つ〉ことしか彼女にはできないのだ。
遠くから足音が響いてきて、彼女は精神を深い底へと沈めた。
足音の相手に、自分が目覚めていることを悟られないために。





「ちょっと乙夏!」
『ねぇ、考えた事ある?
今はさ、あたしがあたしだよって意識あるじゃない?
例えば、ん~
……生まれ変わり、つまり〈輪廻転生〉が実際あるんだとし
たら……
また別な人間になっても、あたしだって思うのかな?
自分の事……』
『あたしは物事に執着しないの。だって、失った時に悲しいも
の……』
その頃乙夏は、長い長い夢を見ていた。咲夜の夢を見ていた。
「乙夏……乙夏……乙夏!!」
遠くから声がして徐々に大きくなっているなぁとは頭の片隅
で感じていた。
「うるせぇな、今忙しいんだよ俺は」
無意識にそんな言葉が口を出る。今は夢の中でしか会うこと
のできない咲夜の姿に、乙夏は目を覚ましたくなかった。もう
少しだけ、咲夜を見ていたかった。
が……声の主は、そうさせてくれないようだ。
「あんた、あたしに何をしようとしてたわけ?」
顔を上げると七月がひきつった表情をしている。
「ばーか。この状況で俺がなにかできるかよ。」
芋虫状態の乙夏には手も足も出ない。
七月のほうは、手足を縛られているわけではなかったので、
少し頭が痛いという程度で体の自由は利く。
七月が目を覚ましたということは、逃げることが可能なわけ
である。
「もう、お嫁に行けない」
七月は、ぶつぶつ言いながらはだけていた制服を直すと、乙
夏の両手両足の自由を奪っている物に手をかけようとする。
以外に七月は冷静だ。人間動揺しすぎると、このように逆に
冷静になれたりもするが……
「うっ……」
一瞬ばちっという音がして、七月は慌てて手を離した。
「乙夏……この紐何? 触れないよ」
顔を近づけてよくみると、何か文字が紐に刻まれていること
に気がつく。
「かんべんしてくれよ……
痛いし、殴られるし、縛られるし、挙句には紐がほどけない
のかよ……
俺って不幸……」
乙夏は力なく、うなだれる。

『もしもぉ~し』

頭の中に響いてくる声に、ようやく乙夏は気がつく。
「なんだ?」

『ボクの名前は、御名神あずみ。
よかったぁ~!
ようやく気がついてくれたね~ボクに~』

「あんたの声に気がついたところで、この状況じゃどうしよう
もねぇよ」
どうにもならない自分の状況に苛立ち、思わずあずみに八つ
当たりしてしまう。
普段の乙夏ならば、絶対にしない行為だ。

『そのロ~プ~
多分ねぇ~縛った本人の念が消えないと、ほどけないよぉ~』

「信じたくないけど、咲夜だった……咲夜だったんだよ。
生きてたんだ。
あの声、あの姿、間違えるはずなんてない……
咲夜……」
意識がなくなる前に言葉を交わした相手の顔が、脳裏に蘇る。
「咲夜なわけない!
咲夜が乙夏に、あたしにこんなことするわけないっ!
何かあったんだよ、咲夜生きてるんだよ!」
七月は乙夏を睨み付ける。
目の前に叩きつけられた咲夜の死と、自分達とは敵対している
かもしれない咲夜の存在に七月は、真実を確かめる術がないこと
を強く認識する。

『そうだねぇ~七月ちゃん。
乙夏君をほどいてあげるには~、その縛った子のぉ~念が必要
なんだぁ~
彼女の後を追ってくれる~?』
「でも乙夏がこの状態じゃ」
「俺は大丈夫。おまえを一人で行かせることのほうが心配だよ」
乙夏は七月をじっと見る。
「乙夏……」
「いや、ほら、おまえを野放しにしたら皆様にご迷惑がかかるだ
ろ。
そーゆーことだ」
慌てて七月から目を逸らすと、いつものように憎まれ口を叩く。

『大丈夫~
本当はこ~ゆ~事しちゃいけないと思うんだけど~
多分バレたらボク、この会社クビになる気がするけどぉ~
ボクの子供をそっちに送るからぁ~
その子と一緒に七月ちゃんは~しばらく行動してくれる~?
身の安全だけは保障するよぉ~』

そう言ったのと同時に、空間に歪みができる。
光の中から一人の少女が出てくる。

『その子は〈サタン〉。
エンジェルタイプ0。エンジェルナンバー0。
初めて感情を持ち行動するタイプじゃないかなぁ~』

「エンジェル?」
乙夏と七月は、あずみに尋ねる。
「まぁ、深くは聞かないでくれる~
企業秘密だからねぇ~」
あずみは、真にバレたら間違いなくクビかな~と心に思う。
「よろしく、七月」
サタンは、にっこりと笑って七月に握手を求めた。
サタンの顔の特徴として、一際目立つのが赤い瞳である。髪の色
も赤で、腰までのストレートだ。
「よろしく、サタン」
これから、とんでもない出来事が七月とサタンに起こることを、
今この場にいるメンバーはまだ知らない。
サタンを介入させたことが、後々重大な鍵を握っていることにな
る。
〈サタンプロジェクト〉
あずみは、社内でプロジェクトが進んでいる事など知らない。
乙夏と七月は、咲夜が生きているかもしれないという嬉しさで胸
が一杯で、先程の不安など、すでに忘れてしまっていた。
ただ、一度死んで、冥界の食べ物を一度口にしてしまったら、こ
の世には戻って来れない……そんな話を遠い昔誰かに聞いたなと、
乙夏は心の中でふと思うのだった。




(つづく)

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