第19号 双貌
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週刊「帰還限界点 連載小説」
☆============================= 第19号 (2008/11/23)=====
『あまねく悪魔の棲まう城』(第4話 -2- 双貌)
「さて、まずは自己紹介かな。」
その言葉が闇よりこぼれ出たとき、RPGで鍛えた勘を働か
せて遠回りで神代医科大学へ向かった事、それを今更ながら後
悔した。いや、すでにタコ殴りにされた事で十分過ぎる程後悔
はしているのだが……
『クソッ!
ゲームならもっと痛くなく作れよな!』
自分の置かれた状況もわきまえず、というか否認したいのが
今の心情だろう。例えゲームと分かっていても、自分が惚れた
女の死に顔を見るのは余りいい気分ではない。むしろ、生々し
すぎて吐き気すらもよおす。だが、それすらさせてくれないの
がこのゲームのストーリーらしい。
『あぁっ!先を越されたっ!』
乙夏の頭に直接誰かの言葉が流れ込む。乙夏は、三度ナビゲ
ーターが変わった事に気付いたが、あえてそれを無視した。
「誰だよ、オマエ……」
芋虫よろしく両手両足を縛られこの上無く格好悪い姿の乙夏
は、闇に紛れている女に向かって唯一束縛されていない口を出
す。すると、はゆっくりと闇から顔を出し、転がる事しかでき
ない乙夏の眼前にしゃがみ込んだ。
『オイ、ミニでしゃがむな!中が見えてる……』
正直、嬉しい誤算であった。しかし悲しいかな、芋虫乙夏は
スカートの中を見る事は出来ても手を出す事は出来なかった。
「いつまで見ててもおあずけよ!」
今更ながら、しかし聞き覚えのある声と同時に平手が飛んで
来ていた。平手が乙夏の顔面をとらえたインパクトの瞬間、女
の指の間から彼女の右太股の内側に蛇のような痣があるのを見
つけてしまった。それは最近になってようやく知った、彼女の
親も知らない共通の秘密、乙夏と彼女の秘密……
「咲夜?」
倉庫の窓から漏れる月明かりに妖しく照らし出されたのは、
艶やかな笑みを見せる八百威咲夜の姿であった。
「元気……でもないかな?
乙夏=モードニス君?」
言うと咲夜は乙夏の腹部、しかも昨日刺された辺りを無造作
に指でつついた。
「かっ……」
刺され、縫合、抜糸もまだ……
昨日の今日で傷が塞がるわけもなく、いつの間にか服に血が
滲んでいた。
『うえ……
ナンか、腹がまた痛くなってきた……』
正確には病院でいつの間にか射たれた痛み止めが切れたうえ
に、傷が開いたのだ。ふらふら歩き回った挙げ句、タコ殴りに
もあっている。普通、至極当然のことである。
「あらら…傷、開いちゃったね……」
言いながらも、咲夜は血の滲み出している位置を的確にとら
え、彼女の人差し指を朱に染めながらつつき続けた。
「さ、咲……やめろ……」
痛みに対する耐性は皆無に等しい乙夏であったが、〈目の前
に咲夜がいる〉と言う本来あってはならない事象に救いのよう
なものを感じていた。
だが、それは次の一言で現実に立ち戻された。
「あ、自己紹介まだだったよね。
私は……〈藤守まりあ〉よ。
ちなみに君をボコボコにしたANGELUSは壊しといたわ。
まぁ、私が壊すまでもなく頭部が破損していたけど……」
しかし、乙夏は聞いていなかった。いや、聞けなかった。激
痛によりすでに意識がとんでいたのだ。
「あれ?
しょうがないわね……せっかく七月ちゃんと相部屋にしてあ
げたのに……」
まりあが乙夏から脇に目を移すと、安らかな寝息を立てる湊
七月の姿があった。彼女が乙夏と違う点と言えば怪我をしてい
ない事と束縛されていない事か……
そんな二人を交互に見比べ、まりあは何事かを思いついたと
いわんばかりに手を叩き、乙夏の束縛を解いた。
「ん~制服を破っちゃ可愛そうかな?」
まりあは人差し指を唇に当てて呟き、幸か不幸か制服姿だっ
た七月の、前とスカートをはだけさせた。お世辞にも大きいと
は言えない胸を寄せているブラジャーはどうしようか、とまり
あは悩んでみせたが、フロントホックに気付いた瞬間、迷わず
ホックをはずしていた。
小振りだが形のいい胸が露になり、まりあは乙夏に触らせて
あげたいというささやかな衝動にかられ、七月の股を開かせる
とその間に乙夏を配置し、七月の腹を枕にするようにうつ伏せ
に寝かせた。
「くすくす……あらあら乙夏君!Hなことをしちゃ駄目だぞ!」
いたずらっぽい笑みを浮かべ、まりあは倉庫から出た。
「さぁ、警察が来る前に逃げきれるかな~?」
七月に覆いかぶさる乙夏の図が月光に照らされた倉庫に、鍵
のかかる冷たい金属音が木霊した。同時に、無意識に浸かって
しまった乙夏の頭には、ナビゲーター御名神あずみの声が虚し
く響いていた。
『ボクの名前は御名神あずみ~!
ねぇ?聞いてる~?も~し、もぉ~し?』
(つづく)
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