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第18号 『あまねく悪魔の棲まう城』 和

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    週刊「帰還限界点 連載小説」

☆============================= 第18号 (2008/11/21)=====


『あまねく悪魔の棲まう城』(第4話 -1- 和)


             記録 御名神(みなかみ) あずみ

「もう!なんなのよ、あの〈乙夏〉ってコはっ!」
 ディスプレイに向かってヒステリックな声を上げたのは、現
在〈房森陽洸〉のナビゲーターを務める倉本奈那美であった。
しかし、現在の乙夏=モードニスのナビゲーターを務めるのは
東城神詞であり、彼女に割り込まれたカタチとなった東城は完
全に頭に血が上っていた。
「ふざけるな! 今のナビは俺だ!
 勝手に他人の被験者にアクセスするんじゃねぇ!」
 コンソールに両手を叩きつけるように立ち上がると、東城は
円卓の対岸にいる奈那美に中指を立てた。
「……」
 しかし奈那美は何事もなかったかのように、再び〈房森陽洸〉
の動向に目を向けていた。
『このアマ……』
 東城は立てていた中指を拳に変え、ぷるぷると震わせた。今
にも彼女に殴りかからんと大きく振りかぶってみせるが、いか
んせんディスプレイとコンソールを並べて円卓を作り出してい
るため、彼女のデスクに手をとどかせるにはDWナビゲーショ
ンルームを半周しなければならなかった。
 しかし、当然のように東城はそうしなかった。
 彼女の反応はいつもの事だし、それにいちいち腹を立てるの
も馬鹿らしい事だと分かっているのだ。だが、ストレスのはけ
口が欲しいのも事実である。ひとまずDWシステム主任の新堂
真に話題を振る事で気分転換を図った。
「おい、新堂よぉ~
 藤守(ふじもり)の件はどうなった?」
 東城が新堂の下についた条件である、藤守ミサヲ捜索の状況
を訊ねるが、隣のデスクで別な〈誰か〉を見つめていた新堂は、
一度だけ東城を見ると再びディスプレイに目を落とし、出入口
の自動ドアを指さした。
 正直なところ、新堂のこの反応にも苛立ちを感じた東城であ
ったが、大人しく新堂に従いドアを向くと、あまりにもタイミ
ング良くドアが開いた。
「真ぉ~!」
 脳天気に新堂の名を呼んで入ってきたのは、〈御名神あずみ〉
DWシステム開発メンバーの一人であると同時に、新堂の幼な
じみという曖昧な位置にいる女性である。
 その彼女の登場に唖然とした東城に対し、敏感に反応したの
は奈那美であった。
「御名神さん!
 新堂主任はアナタの上司なのよ、せめて名字で呼ぶとか出来
ないの!」
 奈那美は明らかに苛立っていた。その原因は幼なじみとして
新堂とあずみが共有の時間を持っている事にあるのだが、東城
は気付いていても当の本人らは気付いていなかった。だからこ
んなにも軽く答えられるのだ。
「ごっめ~ん!
 ボク、急いでいたから……」
 それだけ言うと、あずみは新堂に駆け寄り一冊のファイルを
手渡した。
「はい、藤守ミサヲの捜索結果がでたみたいよ。」
「ほんとか?
 本当に分かったんだな!」
 それに返事をしたのは新堂ではなく、横から東城が顔を近付
け詰め寄ってきた。
 あずみは眉をしかめ新堂に目で助けを求めたが、ファイルに
目を通しており、それに気付かなかった。
「真ぉ~」
 あずみがすがるような声になってようやく新堂は腰を上げ、
東城の肩を叩いて休憩室へいこうと促した。
「あずみ、東城の……」
「おっけぇ~
 乙夏君だよね~」
 解放されたあずみは新堂の頼みを遮り、以心伝心よろしく東
城のデスクに腰を下ろした。
『さ~て、まずは自己紹介かなぁ~』
 余り楽観的ではない乙夏の状況を前に、あずみはひたすら脳
天気だった。


(つづく)

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