第07号 接触
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週刊「帰還限界点 連載小説」
☆============================= 第07号 (2008/10/04)=====
『泥人形』(第2話 -3- 接触)
目覚めたときは、ベッドの上だった。それも、見慣れた自分
の部屋の景色はそこにはなかった。
そこは……〈神代病院〉だった。
「乙夏ぁ……」
力の抜けた、安心しきったような涙声が耳に入ってくる。や
がて、霞んでいた視界がはっきりとしてくると、そこにいるの
が七月であることが分かってきた。
「よかった……」
しかし、乙夏には何故自分が病院のベッドに寝かされている
のか分からない。
「……俺……どーしたんだ?」
起き上がろうとしたが、左脇腹を激痛が突き抜けた。
「痛っっってえ……」
「覚えてないの?
昨日のこと……」
「いや、全然……」
腹筋を動かすと、傷が痛むので、自然と言葉が少なくなった。
「咲夜のことは?」
「……覚えてっけど……」
まだ実感がない。磔にされた咲夜……その脇にたたずむロボ
ット、まるで悪い夢を見ていた、という感じしかない。
それに、甲斐造……今までの彼ではない、冷淡な様子しか感
じられない、あの男……
「なんで……腹、怪我してんだ?」
「……刺されたのよ」
その言い方があまりにも唐突なので、乙夏は七月に順を追っ
て説明するよう頼んだ。
真相はこうだ。
「乙夏。
ちょっと、乙夏!
後ろ……乙夏ーっ!」
甲斐造の背中を見続けて、放心していた乙夏の頭上から、ロ
ボットの槍が襲おうとしていた。
七月の呼ぶ声にもまったく反応しない。そのまま放っておけ
ば、頭のてっぺんから棒の生えた死体が一つ出来上がっていた
ことだろう。
しかし、槍が振り下ろされるかという刹那、七月は思いっき
り乙夏の右腕を引っ張った。乙夏の頭部にすでに振り下ろされ
ていた槍は、突然目標の位置が変わったことで、彼の左脇腹に
突き刺さった。
それはそれで深い傷だったが、頭部を破壊されたらはっきり
言って即死だ。それに比べれば、脇腹ぐらいどうってことはな
い。
だが、一回目標を外して諦めてくれる連中ではなかった。指
令できる立場の者から「殺せ」と言われれば、それを全うする
まで活動する。
絶体絶命とはこのことだ。
……にもかかわらず、乙夏の意識はない。
『脇腹ぐらいでなに気ぃ失ってんのよー!』
七月は、冷静になろうと必死だったが、彼女だってなんのこ
とはない普通の女の子だ。こんな事態に冷静になれといっても、
それは酷というものだろう。
槍は、今度は彼女に振り下ろされようとする。彼女はそれか
ら逃げるために立ち上がろうとしたが、恐怖のためか、できな
かった。それでも、このままでは殺される―生への執念という
べき思いが、彼女を逃げさせた。四つん這いになって、逃げな
がらも冷静になろうと必死で……
だが、冷静になって考えて、生き延びる考えが見つかるのか
……
逃げても、彼女はすぐに要石にぶつかり、移動を禁じられた。
すぐ後ろにはロボットが迫っていた。
『もう、お仕舞だ』
諦めの言葉が、頭の中でぐるぐる回っていた。―その時だっ
た。
ぎりっ……という音がして、ロボットの頭部が180度回転
していた。
「?」
男が、ロボットの頭部を掴んでいた。
「〈ANGEL(エンジェル)シリーズ〉の最下級か……」
ロボットは男の手を退け、身体も一八〇度回転させる事で男
に身体ごと正面を向けた。
「止した方がいい。私は到底君達が勝てる相手ではない。
分かっているだろう?」
妙に余裕のある言い方だ。嫌味ったらしい事この上ない。
男は電光石火で動いてロボットの胸部にある、奇妙な紋章入
りの装甲を剥がしていた。
装甲の剥がされたそこに、直径3センチメートル程度の水晶
球が埋め込まれていた。
「これが〈……〉という訳だね」
ぶちっ……ぎっ……という耳障りな音のした時には、片方の
ロボットは使いものにならなくなっていた。男は、もう一体も
同様にして、動けなくした。
男の手には球体が二つ、握られていた。
「怪我はありませんか?」
何も持っていない方の手を七月に差し伸べて、立たせてやる
と、すぐに男は立ち去っていった。
周囲にはいつの間にか―正確には甲斐造の登場した前後から
―誰もいなくなっていたが、誰かの呼んだ警察のパトロールカ
ーのサイレンが遠く響いていた。
「……凄く……不思議な人だったの」
その言葉で、七月は説明を閉じた。
「誰なんだろーな、その人」
「あっ……ごめん。
あんたんトコのおじさんとおばさんに、電話かけてくる。
さっきもかけたんだけど、いなかったみたいでさ……」
七月はそうして、部屋を出ていった。それからすぐ、奇妙な
ことが起こった。
『ったく……なんで避けなかったんだよ!
ボケ!』
「?」
頭の中に直接、人の声が響いたのだった。
『……そんなに驚くっつー事は……
お前、そこがどこだか分かってねーな?』
「だっ……あんた誰だよ!」
謎の声に、つい言葉をかける。
『俺は東城 神詞、今回のお前のナビゲーターだ。
で、ここは〈DWゲーム〉の中。
お前は、そのテストプレーヤー。
今まで忘れてたってのかよ』
まくしたてるその口調は乱暴で、〈初対面〉とは思えない。
正確には顔を合わせていないが……
『そーだった……
俺は、ゲームの中に……』
乙夏はやっと、その事実に気付いた。
『あのロボットや……
咲夜のことも……ここがゲームの中だからなのか?』
『まあ、そーゆーことになる』
〈東城〉と名乗った口の悪いナビゲーターは、一通り文句を言
い終えてすっきりしたのか割にあっさりとした口調で問いに答
えた。
『昨日だって、「危ねーから避けろ」って言ったのに、何ボケ
てたんだよ?
腹で済んだからよかったけど、あの女がいなかったら、お前
死んでるぞ?』
『……そーは言っても、ゲームん中だろ? 別に死んでも俺自
身は平気じゃねーの?』
乙夏は気楽にそう言い、ベッドに横になった。東城は、
『ま、そーだけど』
と返した。反論はない。
それから、東城は話し掛けてこなかった。
(つづく)
☆お知らせ==============================================
〈ANGELシリーズ〉〈神代病院〉〈謎の男〉を追加です!
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『泥人形』(第2話 -3- 接触)
目覚めたときは、ベッドの上だった。それも、見慣れた自分
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「乙夏ぁ……」
力の抜けた、安心しきったような涙声が耳に入ってくる。や
がて、霞んでいた視界がはっきりとしてくると、そこにいるの
が七月であることが分かってきた。
「よかった……」
しかし、乙夏には何故自分が病院のベッドに寝かされている
のか分からない。
「……俺……どーしたんだ?」
起き上がろうとしたが、左脇腹を激痛が突き抜けた。
「痛っっってえ……」
「覚えてないの?
昨日のこと……」
「いや、全然……」
腹筋を動かすと、傷が痛むので、自然と言葉が少なくなった。
「咲夜のことは?」
「……覚えてっけど……」
まだ実感がない。磔にされた咲夜……その脇にたたずむロボ
ット、まるで悪い夢を見ていた、という感じしかない。
それに、甲斐造……今までの彼ではない、冷淡な様子しか感
じられない、あの男……
「なんで……腹、怪我してんだ?」
「……刺されたのよ」
その言い方があまりにも唐突なので、乙夏は七月に順を追っ
て説明するよう頼んだ。
真相はこうだ。
「乙夏。
ちょっと、乙夏!
後ろ……乙夏ーっ!」
甲斐造の背中を見続けて、放心していた乙夏の頭上から、ロ
ボットの槍が襲おうとしていた。
七月の呼ぶ声にもまったく反応しない。そのまま放っておけ
ば、頭のてっぺんから棒の生えた死体が一つ出来上がっていた
ことだろう。
しかし、槍が振り下ろされるかという刹那、七月は思いっき
り乙夏の右腕を引っ張った。乙夏の頭部にすでに振り下ろされ
ていた槍は、突然目標の位置が変わったことで、彼の左脇腹に
突き刺さった。
それはそれで深い傷だったが、頭部を破壊されたらはっきり
言って即死だ。それに比べれば、脇腹ぐらいどうってことはな
い。
だが、一回目標を外して諦めてくれる連中ではなかった。指
令できる立場の者から「殺せ」と言われれば、それを全うする
まで活動する。
絶体絶命とはこのことだ。
……にもかかわらず、乙夏の意識はない。
『脇腹ぐらいでなに気ぃ失ってんのよー!』
七月は、冷静になろうと必死だったが、彼女だってなんのこ
とはない普通の女の子だ。こんな事態に冷静になれといっても、
それは酷というものだろう。
槍は、今度は彼女に振り下ろされようとする。彼女はそれか
ら逃げるために立ち上がろうとしたが、恐怖のためか、できな
かった。それでも、このままでは殺される―生への執念という
べき思いが、彼女を逃げさせた。四つん這いになって、逃げな
がらも冷静になろうと必死で……
だが、冷静になって考えて、生き延びる考えが見つかるのか
……
逃げても、彼女はすぐに要石にぶつかり、移動を禁じられた。
すぐ後ろにはロボットが迫っていた。
『もう、お仕舞だ』
諦めの言葉が、頭の中でぐるぐる回っていた。―その時だっ
た。
ぎりっ……という音がして、ロボットの頭部が180度回転
していた。
「?」
男が、ロボットの頭部を掴んでいた。
「〈ANGEL(エンジェル)シリーズ〉の最下級か……」
ロボットは男の手を退け、身体も一八〇度回転させる事で男
に身体ごと正面を向けた。
「止した方がいい。私は到底君達が勝てる相手ではない。
分かっているだろう?」
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男は電光石火で動いてロボットの胸部にある、奇妙な紋章入
りの装甲を剥がしていた。
装甲の剥がされたそこに、直径3センチメートル程度の水晶
球が埋め込まれていた。
「これが〈……〉という訳だね」
ぶちっ……ぎっ……という耳障りな音のした時には、片方の
ロボットは使いものにならなくなっていた。男は、もう一体も
同様にして、動けなくした。
男の手には球体が二つ、握られていた。
「怪我はありませんか?」
何も持っていない方の手を七月に差し伸べて、立たせてやる
と、すぐに男は立ち去っていった。
周囲にはいつの間にか―正確には甲斐造の登場した前後から
―誰もいなくなっていたが、誰かの呼んだ警察のパトロールカ
ーのサイレンが遠く響いていた。
「……凄く……不思議な人だったの」
その言葉で、七月は説明を閉じた。
「誰なんだろーな、その人」
「あっ……ごめん。
あんたんトコのおじさんとおばさんに、電話かけてくる。
さっきもかけたんだけど、いなかったみたいでさ……」
七月はそうして、部屋を出ていった。それからすぐ、奇妙な
ことが起こった。
『ったく……なんで避けなかったんだよ!
ボケ!』
「?」
頭の中に直接、人の声が響いたのだった。
『……そんなに驚くっつー事は……
お前、そこがどこだか分かってねーな?』
「だっ……あんた誰だよ!」
謎の声に、つい言葉をかける。
『俺は東城 神詞、今回のお前のナビゲーターだ。
で、ここは〈DWゲーム〉の中。
お前は、そのテストプレーヤー。
今まで忘れてたってのかよ』
まくしたてるその口調は乱暴で、〈初対面〉とは思えない。
正確には顔を合わせていないが……
『そーだった……
俺は、ゲームの中に……』
乙夏はやっと、その事実に気付いた。
『あのロボットや……
咲夜のことも……ここがゲームの中だからなのか?』
『まあ、そーゆーことになる』
〈東城〉と名乗った口の悪いナビゲーターは、一通り文句を言
い終えてすっきりしたのか割にあっさりとした口調で問いに答
えた。
『昨日だって、「危ねーから避けろ」って言ったのに、何ボケ
てたんだよ?
腹で済んだからよかったけど、あの女がいなかったら、お前
死んでるぞ?』
『……そーは言っても、ゲームん中だろ? 別に死んでも俺自
身は平気じゃねーの?』
乙夏は気楽にそう言い、ベッドに横になった。東城は、
『ま、そーだけど』
と返した。反論はない。
それから、東城は話し掛けてこなかった。
(つづく)
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