【八十神の舞】神々の舞う地、神代市を舞台につむがれる物語。

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2009年09月13日

CROSS-POINT(17)


「ぼ……僕は、何も……」

(やれやれ、ここではそんな肉体的な暴力に意味はないよ。それに、ナインは知っているのではないよ。考 えるんだ。そして、ここで見聞きし、自ら体験したこと、その肉体に、その細胞一つ一つに記録された別な世界、別な歴史、別な時間との接触が、自分の本来在 るべき処に還った時に役に立つ――そろそろ――そろそろ、君の話を聞かせてよ、トゥー)

何もなかったかのように、スリーは椅子に腰掛けなおし、軽快にキーボードを叩き出した。先ほどと違っていたのは、文面と同じく弾き出される音に穏やかなそれが混じっていたことかもしれない。
それを感じてか、それともスリーのいった意味を解してかはわからないが、トゥーは再びソファーにどかりと腰をおろし、忌々しげなわななきを肩でしながら押し黙った。ただ、一言だけを残して。

「続けろ……」

はいはい。そうだね、僕自身もそれは知りたいところだ。
僕はどんな役目があってここにいるのだろう。

それが知りたい――


(つづく) 

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CROSS-POINT(16)

「くはっ……」

胸にあたる金属の痛みより、一瞬にして酸素の供給が絶たれた苦しみが――なんて解説するゆとりなんかありゃしない。僕の襟がさらに引き絞られ、一気に苦しみが増してくる。

「や、やめ……」

どうにか絞り出した言葉に、トゥーは無造作に――いや無慈悲にも、か――スリーに向かって僕を投げた。
突然人が宙に舞い、抱き抱える形になったスリーとともに、僕らは大きな音をたてながら床に転げ落ちた。まったく、なんて馬鹿力だ。

「もう一度聞く。貴様、何を知っている?」

僕の知ったことか! と返したかったが、僕の呼吸が間に合わず、ゼイゼイと悲痛な音をだすだけであった。




(つづく)
 

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CROSS-POINT(15)


(まったく、すごい、流石だよ、ナイン。やはり君こそ最高の知恵者だ。ここまで断片的な情報しか与えられていない状況下で、関連させ続けられる発想力。ここまでとは思わなかった)

一気に打ち込みが始まり、僕とトゥーはスリーと画面を交互に見返していた。だが、思いがけない文章が画面に現れたとき、僕らは思わず椅子から腰を浮かしていた。

「それは、どういうことだ! この俺が、こんなうろんな奴を待っていただとでもいうのか! そもそも、俺が自らの部下を残してこの世界に延々留め置かれていると知っている!」

そう、スリーは言ったのだ。

(仲間を救う術はナインが知っている)

僕自身、反論をしようと口を開きかけたが、それより早くトゥーの鋼を纏った手甲ごと僕の胸ぐらを激しくつかみあげたのだ。



(つづく)

 

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CROSS-POINT(14)

「世界の成り立ち……世界生成の秘密がここにあるとでもいうのか?」

(僕は、まだ、そこまでは言っていないよ。でも、流石だね。ちょっとしたキーワードから様々なことに気づき、関連させる。やはり君はこの世界の住人だよ、ナイン。そしてそのほとばしる感情の持ち主であるトゥーもね)

ふん、と鼻を鳴らしてどっかとソファーに身を投げ出すトゥーを一瞥したが、僕の興味は世界そのものに向いていた。
自分の認知、認識、受け取り方によって世界の見え方や自分自身の生き方が変わってくるのは現実世界でも同じだ。だが、この世界はその部分が同じというかよ り高度に実現してしまう世界に思えてきた。そもそも、思っただけでそこに椅子があらわれた。触れても、座っても、それは確かに椅子だ。今、ここに存在す る。スリーが持っているミニ・パソコンにしてもそうだ。彼からミニ・パソコンのイメージを流し込まれたがためにそれがそこに存在するようになったんだ。よ く考えてみろ。僕はそもそも、パソコンという代物が何かと知っていたのだろうか?

(……)

あ、いや、スリー。別に沈黙を打ち込む必要はないだろうに……





(つづく)

 

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CROSS-POINT(13)


この男は、僕が今――スリーの言葉を使うなら――認知しているこの場にふさわしくない、と思う。これが俗に言うコスプレかと言えばそうではな い。事実、男が向けた剣は手入れが行き届き輝いてはいたが、無数の細かな傷をもつまさしく戦場で鍛えられた真剣だった。模造できるものではない、リアルな 何かを感じずにはおれなかった。
そう、だからこそ、異質なんだ。
今時、剣? 様々な兵器が存在する現代に?

(ナイ ン。その認識は間違っている。なぜなら、ここは現代ではない。いや、それ以前に歴史や時間に取り残された狭間の世界だよ――そんなに難しい顔をしないで。 すぐ疑問をくちに出す。悪いことではないけど、それでは真実が見えるまで時間がかかりすぎるよ――狭間の世界……そもそも、世界はどういう形で成り立って いるのだろうね)

スリーから言われるまでもない。それはもともとあった疑問であった。


(つづく)
 

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2009年09月06日

CROSS-POINT(12)


「ち……こいつもまたうろんな奴よ。気に入らんな」

(そんなこと言うものではないよ、トゥー。彼はナイン。僕ら全てに恵みを運ぶかもしれない知恵者。そう、なんでもかんでも怪しんでいては先に進まないよ)

スリーの軽快なキィ・ボードの音すら自分にとっては害毒とでも言わんばかりに苦い顔をしている――のだろう。声には怒気以外に一抹の不安の様なものが含まれている気がした。

「貴様も貴様だ。科学技術だかなんだか知らんが、その手妻も気に入らん!」

この男……

「俺は、一介の傭兵だ。剣を振るい、生きていくために必要なことだけをする。ただの戦場稼ぎなのだからな」

異質だ。


(つづく) 

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CROSS-POINT(11)

 
「ふん、動じないのはたいしたものだなぁ、えぇ、おい。
ハッタリか? 内心は冷や汗ものか?
――まぁ、いい。要は俺の役に立つかどうかだけよ」

尊大に言い放つ男に少しばかりの羨望の念がわき起こるのを感じる。僕はおそらくこの男のようには生きられないことをしっているんだろうな――そう、思っていたことも手伝って、正直彼の抜き身の剣が向けられていることを気にとめていなかった。






(つづく)

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2009年09月03日

CROSS-POINT(10)

 
「ようやく俺様の出番かよ!」

スリーの背後にある扉から闖入してきたのは、黒衣のロングコートに同色の革のパンツ。いかつい鋲 をいくつも備えたすね当てとブーツ。何よりも特徴的だったのは大振りの剣を帯剣していたこと……いやいや違うな。この男の長い黄金色の髪から無貌の仮面を 覗かせていることであった。
なんて、コスプレな……思った刹那、金髪の男は音もなく剣を抜き、その切っ先を僕に突きつけた。

(つづく)

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2009年09月02日

CROSS-POINT(9)


(ようやく、この認識を持ってもらえたようだね。そう、今の僕は情報生命体。君のいう、魂のみの存在さ。まぁ、ただたんに肉体という器を持たない だけ。情報の海の中にいてさえ自我を残しておければ君にも可能なことだよ。かつて僕の世界ではそれが研究され、実用化に至った――が、まぁ、それは別にど うでもいい話しか)

パソコンの画面を見せながらそのつるりとした仮面を揺らして肩で笑っていた。

「なるほど、情報生命体、ね。まるで死を超越したような話しだ」

不敵な笑みをつくって見せたが、彼の様子からは意に介すものは見られない。なんともし甲斐のない相手だ。
思うより早く、新たな文面が打ち出された画面をスリーは見せてくる。あぁ、少し違う。うまく表現できないもどかしさが同時に僕を襲う。だが、それは今どうでもいい。新たに示されたそれは、僕の疑問を更に加速させたからだ。

(こうやって、僕が色々もどかしさ抜きに話しができるようになったわけだし、この世界について少し説明しておくよ。いいかい、僕との出会いはまだ序の口。プロローグに過ぎないんだからね)

念を押されるように一度文が切られ、彼は僕が頷くのを待っていた。それを僕はあごをしゃくって促した。
やれやれ、と言わんばかりに肩をすくめて見せたスリーは、再び軽快にキィ・ボードを叩き出した。
少しすると、コリコリと頭を掻いてみせ、おもむろに取り出したケーブルを膝上のパソコンとラブ・ソファ正面の40インチテレビとにつなぎ、これまた何処か らか取り出したリモコンで操作しはじめた。すると、彼がパソコンに打ち込んだ文がテレビに投影され、彼はテレビ画面を見ろとばかりに指さし僕を促した。

はいはい、面倒になったのね。

(そう、いちいち打って見せてじゃぁ面倒――というか、さっきとあまり変わらないからね。じゃぁ、色々説明をするとしますか)

何か、性格が変わったというか、新たに発見したというか……ずいぶんいきいきしているな、と思いつつ、画面を見ることにした。

(はじめに言っておくけど、ここで話したことは全て現実だし、それに直結しているということの重みを知っておいて欲しい。何を言っているかわからないだろうけど、今はそれだけを記憶しておいてくれ。あぁ、いいよ、返事はしなくて。このまま話しは進めるから)
(ま ず、この世界は、というか、この場所は全ての運命と歴史と時間のはざまの世界。ナイン、来たばかりの君にはまだ理解できないだろうが、この世界は重層構造 でできている。多重世界、平行世界と言い換えてもいい。君の好きな表現を使ってもらって構わない。とにかく、君が今まで生活してきた世界とは似て非なる世 界が無数に存在しているんだ)
(そして、この全ての運命と歴史と時間のはざまの世界でつながって
いるんだよ)

瞬間、僕 は雷にうたれたような衝撃を――この身に感じることはなかった。ただ、かるほどね、と思っただけであった。通常の人間だったらどうなんだろうな――と思わ ないでもないが、まぁ、僕はこうなのだから仕方ない。だが、この文章以上の衝撃を僕は身を持って体感することとなった。




(つづく)

 

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CROSS-POINT(8)


「魂だけ、だろう?」

存在しているが同時に存在していない。
彼自身はおそらく僕が認知して意識下から生み出した存在 ではないだろう。だとすれは、スリーはそこに存在する。だが、あの途切れ途切れの会話。無貌と仮面。どうにか人たるを形成しはしたが、彼の身なり――着て いる服は僕の服だ。とすれば、服の中身は空っぽ。この世界で肉体を持ち得ない魂だけの存在なのではないか……と愚考してみたのだが、さて、リアクションは どうだ?

スリーの動静、仕草を漏らさず観察してやるつもりで彼をみやる。すると彼は満足そうに、だが乾いた声で笑い声をあげた。

「は、は、は、は、は……
素晴らしい、よ、ナイン。その、通り、だ。僕、は、言わ、ば、情報、生命、体。別、な、世界、では、精霊、とか、妖精、幽霊、なんて、呼ばれる、こと、も、ある、ね。でも、君、が、僕の、現実、に、追いついて、ない。だから、こう、せざるを、えない。
そこ、で、提案。僕の、現実、を、君に、伝える」

瞬間、僕の中に彼の現実……その一部が流れ込んできた。今まで認知していなかった、認識できずにいたものが彼の膝の上にあらわれていた。いわゆるモバイル・パソコンであった。

ディスプレイを開くと、軽快で規則正しい音を立てはじめ、止まる。そして彼が見せてきたものとは、一つの途切れもない滑らかな文章であった。

(つづく) 

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2009年08月30日

CROSS-POINT(6)

 
この状況下で、僕は新たな感情が芽生えていることに気づく。それは興味であり、好奇心。自らの知に対する挑戦を楽しんでしまう、僕の悪癖というやつだ。
こうなっては仕方がない。僕は僕自身の知を満たすその欲求にあらがう術は知らない。知りたくもない。いいさ、知恵者ナインの名、受け取ろうじゃないか!

「本当に、面白い、ね。迷いが、消え、てるね」

「あぁ、そうさ。不安や恐れで身動きできないなんて、愚かしいことさ。一つ一つ具体的に考えていけば、恐れや不安なんてただの心の弱さでしかないと馬鹿でも気づくさ」

たぶん、僕は笑っていたと思う。自然と口元が緩んでいく。胸を張り、身を起こすことで僕に自信が溢れてくるのを感じる。僕は気のたかぶりを全身に感じていた。

「知的、好奇心、ね。僕には、ない、感情、だ。羨ましい、よ」

「ない感情? 不思議なことを言うね。感情がないなんてこと、あるのかい?」

僕はスリーの言葉を不正確に繰り返した。

「そう、かも、しれない、ね。
でも、お生憎、さま。教えて、あげる、よ。
僕は、伝話、に、特化した、存在。君は、知識、に、特化した、存在。お互い、足りない、何か、を、持っている、のさ」

「なるほど――自分の優位を譲らないってことね――でも、それは人の世ならば常にあるものだろう? 違うかい?
人は前者を才能と呼び、後者をコンプレックスという。人間ならだれしもあることさ――人なら、ね――」

言って僕は何も無い空間に身を投げ出す。そのままいったら、確実に腰をしたたかに打ち付けたろう。だが迷いはなかった。スリーには、一瞬、何の支えもなく 空間に固定されたように見えたことだろう。そう、僕は足を組んだまま、スリーと対面する形で彼とまったく同じ椅子に座っていた。

「さすが、だね。君、は、強い、精神力、が、あるのかも、しれない、ね。今まで、きた、なか、で、一番、早い。
ここ、の、コトワリ、を、つかんだ、かな?」

「そうかもしれないね」

やれやれ、僕はとことん意地が悪くできているらしい。



(つづく)

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CROSS-POINT(5)

  「名前、なんて、ただの、記号にすぎない、よ。
それ、に、ここで、は、名前なんて、意味、ない。どうして、も、僕に記号、を、つけたいなら、スリー、だ。スリー、と、呼んでく、れ――いい、ね、その、反応。素敵、だよ」

スリーと名乗った彼の壊れたラジオのような途切れる言葉の意味するところに、はじめは愕然と、そして怒りに不信とつながる僕の感情の動きを見て取られていた。おそらくその通りに反応していたのだろう。つるりとした仮面が笑っているように見えてくる。

はっきり言って、悔しい。侮られたくないという心理が働きやすい僕の心は簡単に幻惑され続けている。知らないことに直面していることも確かにそうだが、それ以上に相手に馬鹿にされたかのような反応をされたことが一番悔しかった。

そんな心の動きすら感づかれるものかと、僕は抵抗する。だが、それすらも見透かされていると感じると、僕はますます言葉が詰まっていった。

「な、名前が意味ない? スリーにナイン? 数字……本当に記号だっていうのか?」

「そう、だよ。ここでは、名前、は、問題じゃ、ない。
ここでは、その、存在、が、在るべく、ため、に、持っている、情報、が、重要、なん、だ。
ナイン、君には、ここが、どう、見える?
そも、そも、ここ、が、こういう、風景だ、と、誰が、決めた?
君、だ。
君、が、何処か、で、見た、か、慣れ、親しん、だ、風景、を、投影、しているに、過ぎないかも、しれないん、だ。
わかる、かい?」

まぁ、なんとなく……

いや、わかってはいると思う。
偽りではなく、実在する世界。そしてそれを構成しているのは個々人の認知。そしてその個人の認知によって世界の見え方が変わる。そう言いたい――のか?

「さすが、ナイン。知恵者、だね」

「知恵者? さっきから、本当にわからないことばかりだ。僕がナインで君がスリー。まさかとは思うけど、他に七人いる、ってことじゃないよな」

「ます、ます、もって、凄い。凄い、よ。ナイン、その、とおり、だ」

当てずっぽうが当たるかよ――若干の呆れが入ったものの、謎だらけのこの世界で、どうやら僕はあと七人のこんな奴らに出会わなければならないようであった。





(つづく)

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CROSS-POINT(4)

 さっぱりだ、というわけではない。何かに気づけそうな気はする。だが、それはあまりに、あまりにも突飛な着想。ゆえに僕は声に出せずにいた。だが、仮面の彼はゆっくりとうなずくと、話しをつなぎはじめた。

「正しい、といった、よ。
この世界は、ね、僕らが想い、認知したい、こと、が、現実に、なるんだ、よ。君は、思った。リビング、で、立ち呆けで、不自然だ、って。だから、僕は、椅子に座って、いる。君が、それを、望んだから」

僕は目眩を感じていた。そんなことが可能なのだろうか? それとも、これは何か悪い夢なのか? ぐるぐるとめまぐるしく回り続ける思考の鎖は、時に僕を縛 り、また切れては思いがけないところで繋がる。ただ、今の僕が確実に言えるのはただ一つ。僕は空転する車輪だと言うことだ。
そんな僕がどうにか絞り出した言葉は、自分自身を現実につなぎ止めておくための密かな抵抗。確実な情報を得て自分の存在の拠り所にしたいがための問いであった。

「僕は――ナインなんて名前じゃない。お前、いったい何者なんだ!」

しかし、返ってきたのは僕の全てを見透かされたような答えだった。



(つづく)

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2009年08月27日

CROSS-POINT(3)

 
無貌の存在であったそれは、彼であった。はき込まれたジーンズに白いラインのペイントが目立つTシャツにいぶし銀のビーズがアクセントになったロングのマフラー、いずれも黒で統一された出で立ちであったが、その上に乗っているのは白……というよりは純白、一点の曇りもなく磨き出された鏡石のようにつるりとした仮面をつけたそれであった。

無貌、と勝手に呼んでいたが、それが仮面であったことに気づいた僕はいくぶんほっと安心していた。だが、それが真の安心なのかは甚だ疑問だ。僕はそう思いこみたいから、無理矢理そう装おうと、自己暗示しているのではないだろうか?

言わば自分を不安にさせる存在そのものである仮面の彼を前にしてすら自分の思考の海に身を置いてしまうのは危険だな。そんな冷静な自分がいるのにに気づいたことすら僕自身の夢想であるのに、気づかず陥りかけた僕を引き戻したのは仮面の彼であった。

「その、発想は、正しいよ、ナイン。
ここ、は、可能性を、知る、者が、いる、世界」

呆然と立つ僕の目の前で――鏡の住人がごとく在ったと思っていた――仮面の彼は、いつの間にか何処から取り出したのか、ガラステーブルの右側に木の局面が美しいオフィスチェアをおき足を組んで座っていたのだ。

「どうだい? わかったかい? ナイン?」



(つづく)

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2009年08月26日

新連載CROSS-POINTとは!?

  はい、雨宮瞬壱です。

雨宮を名乗るときは創作ってことでご理解ください。

えぇ、突如前触れ無しに始めてしまいました。

今回の新作は、筆が動いたから書き始めた、という類のモノです。

八十神の舞はどうした!

ヘヴンもハデスもほったらかしかい!

流剣Yや天聖物語、本来メインで書いていたはずのANGELUSはどうした!

もっともな話です。

きちんと完結させなければねぇ。

でも、僕としてはこの新作、全ての時代――あえて世界とはいわない――が関わってくる予定です。
今は全てが僕の頭の中……というか、自動書記の如く降りてくる内容を書きとめている、言わば運命の神が織りなすタペストリーのひと織りひと織りでしかないんですけどね。
グイン的にいえばヤーンのみぞ知るといったところですか。

帰還限界点の劇中に登場する神の名を借りれば、傍観神ダンテの御心しだいってところかな。

あぁ、話がそれました。

今回の新作はタイトルが示すとおり、物語が交差する点となる物語になります。

これ以上はなしてしまうとネタバレですので、言いたいけど言えない!

意図的に情報を少なくしてるのは認めますが、実はそれだけじゃないんですよ。

主人公はいるけどいないとか、ナンバリングの秘密とか。

毎回謎かけをしてみるのも面白いと思っていたり。

あぁ、そうすると今までの作品を全公開せねばな~

確定した未来ではなく、選択して創り出す未来というものの断片でもいいから描ければと思います。

さぁて、なんだか楽しくなってきたぞ~




……作品紹介っていうよりあとがきみたいだね、コリャ。



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CROSS-POINT(2)

  「なっっ……」

冷静と平静、沈着を自分のスタイルとして意識し続けている僕ではあったが、初めての怪異との遭遇に思わず声を漏らし、身をこわばらせていた――といっても、他者のそれよりはるかに揺れが少ないことをしっていたが。

「そんなに、驚くなよ。ナイン」

ナイン?
それは僕の名前じゃない。しかも今までそう呼ばれたことはない。
恐慌はどこへやら、反射的に僕は無貌の存在に対して言い放つ。

「ナインってなんだ。僕はそんな名前じゃない。僕の名は……」

しかし、僕とは対照的に穏やかに無貌の存在が言葉をかぶせ遮ってきた。

「ここでは、名前なんて、意味がないよ」

名前が意味のないこと? 疑問しか湧いてこない僕の頭の中は少しずつ平静を取り戻し、疑問の解答を求めたがる思考が情報を欲っしはじめているのに気がついた。気づくと、変わり身も早いもので、あたりの観察を――無謀の存在に対峙しながらも行いはじめていた。

ここは、生活感のない一室。何処かのマンションの一室のようだ。リビング、だろうな。フローリングの床の一部には粗起毛のカーペットが敷かれ、その上に白 いラブソファーとガラステーブルが置かれている。それと対になるように、四〇インチ程の薄型テレビが置かれた大型のテレビ台が白壁に別世界への扉よろしく 寄せられていた。
そう、先にも言ったが、生活感が感じられない、白一色の世界であった。
どこか懐かしく感じる気がしないでもない。
だが、自分の、僕の部屋ではない。それは確かであった。

「殺風景、だろう?
でも、それは、君がまだ、認知できていない、だけだよ、ナイン。でも、そうだね、そろそろ僕の、姿が見え始めてきたのでは、ないかい?」

いわれてまたハッとする。無貌の存在でしかない、顔を構成する全ての要素が欠落していたその頭部はそのままに、今までかろうじて人の形であったそれが、はっきりと人の形になっていったのだ。


(つづく)

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CROSS-POINT(1)

 「おはよう……」

そう声をかけられたとき、僕は初めて寝てしまっていたことに気がついた。だが、いつの間に寝てしまっていたのだろう。いや、そもそも何処で寝てしまったんだ?

まったくと言っていいほどに、その周辺の記憶が抜け落ちていることにも気がついた。困ったものだ。たしかに今まで居眠り癖がなかったわけではない。むしろ居眠りばかり。

だが、ここまで記憶が抜け落ちている事態にははじめての体験であった。

「目覚めは、悪そう、だね」

一言ずつ区切って話しかけられ、はっとして僕は、ようやく起こされたという事を思い出す。だが聞き慣れない、しかし何処か懐かしい響きのある声にいぶかしみながらも僕はゆっくりと声の主を求め振り向いた。

「やぁ」

朗らかに声だけ笑ってみせたその声の主を見た瞬間、僕はまたも息をのんでしまう。

その声の主の頭には、あるべきものが存在しなかったのだ。

まさしく無貌。

人の顔を構成するそれが何一つついていなかったのだ。


(つづく)

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