【another】第四話『再会は離別のはじまり』
プロローグ
人とも魔物ともつかぬ屍に囲まれ、何故彼女は涙を流すのか・・・・
一振りの槍を前に、何故彼女は泣くのか・・・・
異母姉を殺したから?
義理の娘を手に掛けたから?
その真意を知る者は彼女一人しかいない。
そう、今となっては・・・・
「・・・・姉さん・・・・」
地に突き立てられた槍を掴み崩れる様にかがんだ彼女は、腰までとどく深く蒼い髪に全身を覆われる形となる。当然、彼女の今の表情を窺う事はできないのだが、彼女の目に溜められた涙が大粒の滴となって地に落ちている事だろう。
「彼女は貴女のお姉様だったのですか?」
近寄り難い空気を放つ彼女の背後に一人の少女が現れる。この戦が起きた場には相応しくない、華奢な体型である事は見て取れた。そして、少女に相応しく無い物がもう一つある。戦場には必要だが、戦いをした事もなさそうな少女には不釣り合いな物、剣である。それが荘厳な雰囲気を持っている事は少女に釣り合ってはいるのだが・・・・
「私のせい・・・・ですね・・・・
私があんな事言ったから・・・・」
だが、その言葉を彼女は否定した。
「そんな事関係ないわ・・・・
あのヒトとあたしは、どちらか一人しか生き残れなかった・・・・
仕方無い事なのよ。
この壊れ行く世界に定められた律なのだから・・・・」
否定はしていたが、彼女の背中は小刻みに震えを見せている。それは彼女の言葉と心が相反するものである事を物語っていた。
「無理はいけないわ。
貴女は自分を殺している・・・・
そんな事をしていたら貴女が壊れてしまうわ・・・・」
しかし、少女のこの言葉で彼女の放つ空気が一変した。
「うるさい!
黙れ!【弥生】!
【表】に出るなぁ!」
悲しみの領域に侵入できた少女は驚き、一歩、二歩と後ずさった。
少女は【弥生】と呼ばれた事にではなく、彼女の放つ怒りの空気に気圧されていた。
「アナタが弱かったからあたしが存在( い る)んじゃないか!
アナタは自分が弱いと認めたくないんでしょ!
だったら邪魔しないで観ていなさいよ!」
彼女は震えを止めようと自分の肩を必死に押さえ込んでいた。
『黙れ』と言う言葉を連呼しながら・・・・
すると次第に震えの間隔が大きくなり、やがてそれは止まった。
「そうよ、アナタは観ていればいいのよ。」
震えが止んだ身体を解放し、彼女はすっくと立ち上がると大きく胸を張った。
「後はあたしが・・・・
あたしの子が全てを創り直すわ。
アナタとルーの子では無く、あたしとルーの子が!」
その時少女は気付いた。彼女が少女に見えない人物と会話をしている事に・・・・
「貴女は、誰なんですか?」
順序立てた行動を美徳とする少女であったが、今まで会った誰とも違う雰囲気を持つ彼女に、心の中より生まれいでた疑問を口にしていた。
「あたしは・・・・」
ゆっくりと振り返った彼女は小さく微笑み、その自信に満ちた姿は先ほどのそれとは全く違っている事を少女に認識させた。
「貴女は誰なんですか?」
そして彼女の口から、小さいがハッキリとした言葉がつむぎだされた。
「あたしは・・・・」
《1》
彼女は何度目の夢を観ているのだろう。
記憶の奔流が生み出す、夢とも現ともつかないリアルな映像。
その中で彼女は自分を見つめていた。
「その子はボクの子だよ!
ボクがお腹を痛めて産んだ子なんだ!」
夢の中の彼女は一児の母となっていた。しかしその手に子の姿は無く、対峙する蒼い髪の女に一人の幼女が寄り添っていた。
「ミーチャさん・・・・
ならば何故、ローザを捨てたりしたの?」
「それは・・・・」
その問に、ミーチャと呼ばれた彼女は答える事が出来なかった。
「この子が、ウィルザー様の子だから?」
蒼い髪の女は構わず問いただす姿勢に入っていた。
「そう・・・・だね。
それだけだったら貴女の御主人様の敵になってもあの人にしがみついた・・・・」
その言葉に蒼い髪の女は顔色を変えた。
今までの威圧的な態度とは一変し、ミーチャの前で驚きを隠す事すら出来ずにいた。
「まさか、そんな・・・・
ローザの父親はミシェルじゃないなんて・・・・」
蒼い髪の女は顔を蒼白にさせ、ミーチャに懇願しはじめる。
「お願い、弥生様にはこの事を言わないで・・・・」
「・・・・・・」
答が夢の中の彼女から語られる事無く、ノヴァは急激に現実世界に引き戻された。
「あたしに過去があった・・・・」
ベットから半身を起こし、彼女・・・・ノヴァ=ディ=ドゥーディは自分の掌をまじまじと見つめた。
「あたしには・・・・何にもないと思ってたのに・・・・」
しかし、彼女はそんな自分がいつもの自分ではない事に気付くと、あっさりと先ほどの自分の想いを否定した。
「夢は夢だ・・・・
現実じゃない・・・・」
絡んだ髪を手ぐしでかき上げ、ノヴァはそのまま両手で顔を覆った。
「本当にそれでいいのかい?」
突然の声だった。
突然の声にノヴァは一瞬身体を萎縮させるが、声は最近聞いたものであり、忘れたくても忘れられない者である事に気付き、彼女を横目で睨み付けた。
「何の用だ、フォース・・・・」
しかし、壁に背を預けて立っていたのは彼女ではなく彼・・・・ナラ=ツインスターであった。
「久しぶりだね、オバサン・・・・」
「あぁ、久しぶりだっ!」
刹那、ノヴァは左腕を横薙に振り切った!
その突然の攻撃にナラは反応する事が出来ず、飛来する物体を手で受けとめる羽目になる。
「危ないじゃないか・・・・
冗談なら止めてほしいな!」
憮然としながら受けとめたそれ・・・・透明な液体の入った瓶を手の上で遊ばせると、ノヴァの反応はいつも通りの冷たい反応であった。
「冗談じゃないさ・・・・
A-Kでも治癒困難な毒薬だそうだ。」
その言葉にナラは顔を引きつらせ、遊ばせていた瓶をしっかりとつかまえた。
「ちょっと、それって・・・・」
「用がないなら出て行ってもらおうか・・・・
裸のまま外を出歩く趣味は無いからな・・・・」
威圧的な眼差しでナラを見据えたノヴァであったが、一向に出て行こうとしないナラに興味を失い、背を向けて着替えを始めたのだった。
『どうやら、精神に影響は出ていないみたいだね・・・・』
ナラはそんな相変わらずな仕草を見せる彼女に、ほっと胸をなで下ろしていた。
しかし、かつての戦いにおいて意志を持つ剣【魔剣】を体内に吸収した事による影響は夢という形で現れていた。その事はナラも気付いてはいたが、彼は重要視していなかったのだ。
「何を安心している?」
ノヴァは着替えをしながらナラに問いかけた。
突然の事では無かったのだが、ナラはその声に身震いさせて反応した。
「あ、いや・・・・」
そのまま、髭が生えたあとすら見えない細い顎をしごき、ノヴァから目を外らした。背を向けているのでこちらが見えているはずはないのだが、ひとまず目を外らすのが礼儀であるかの様に、部屋に置かれた調度類に目を移したのだ。
「まぁいいさ・・・・
ところで、あたしの服はどうした?」
下着姿となったノヴァは辺りを見回すが、いつも着ていた戦闘服が見当たらなかった。
「そこに掛けてあるよ・・・・」
言葉とともにナラが指さした壁には、AランクのA-Kのみに与えられる礼服が掛けられていた。
「これは・・・・」
さすがのノヴァもこれには驚いたらしく、ナラに回答を求めようとした。
「オバサン、今日は何日だと思う?」
ナラは服についての回答はせず、今日という日が何日であるかを逆に問うてきた。しかし、ノヴァの答えを待たずに話しを続けるのだった。
「神暦〇九九九年一月五日・・・・
オバサンが倒れて一二日目だよ・・・・
その間にA-K組織内に大きな変化があったんだ・・・・」
Aランクの大半が反目したウィルザー総司令によって天使化され、昇天。その事により、現在A-Kとしての本来の機能を果たしていないこと・・・・
ナラの口から語られた現実は、ノヴァにとって重要な意味を持っていた。
「つまりこういう事か?ローザの情報を入手する事が不可能だ、と・・・・」
ノヴァの声は震えていた。自分がA-Kとなり罪もない人々を斬殺、毒殺の黙認、汚い仕事に手を染めてきた意味が失われようとしているのだ。
「御名答・・・・表向きは、ね・・・・」
ナラはA-Kのスーツを指さし、ノヴァにそれを着るよう促す。それに彼女は、一瞬抗議の声を上げようとしたが、大人しく袖を通す事にした。
『随分しおらしくなったねぇ・・・・』
ナラは俯き、躊躇する。これから話す話しの内容で、彼女が新たな拠り所を見出だせるかどうかが心配なのだ。
『やっぱり不安定なんだ・・・・
これ以上糠喜びさせるとオバサンは・・・・』
だがナラの心配は、その対象であるノヴァ本人によって打ち消された。
「先を話せ。
裏の情報があるのだろう?」
深いため息の後、ナラは顔を上げ話しを続けた。
「ローザ・・・・
いや、Leftが捕獲したTEST NO 1000、通称サウザンドが一時間後にライトパレスのゼブルエリアに出現することになって・・・・」
「・・・・!」
声は無かった。しかし、反射的に動いた彼女は着替えもそこそこにナラの胸ぐらにつかみ掛かる。
「分かってるんだろ・・・・
こんな行為が何の意味も持たない事に・・・・」
襟で頚が絞まり、足が地から離れてもナラは冷静だった。彼自身、苦痛に対する耐性を持たないはずなのに、彼は耐えていた。
そんなナラを見たためか、恐らく初めて見せたであろう、怒りに染まったノヴァの心は急速に萎えていった。
「分かっているさ・・・・」
ナラを解放し、彼がもたれ掛かっていた壁にノヴァは額を押しつけ壁を叩いた。
「だから、先を話せ・・・・」
せき込むナラはゆっくりと息を整え、三度話しを始めた。
「怒ると見境がないのは相変わらず、だね・・・・
続きは一言だけさ・・・・」
言うと、今まで見せた事のない神妙な表情となり、その一言は発せられた。
「ローザを止めてほしい・・・・」
その時、ノヴァの心は決まった。
《2》
ノヴァは走っていた。
『ローザがそこにいる!』
ローザと再び会う事に想いを馳せ、ナラより与えられた最後の情報、【研究室】の在処を目指して走っていた。
しかし、ノヴァはレフトパレス・・・・つまり地下が目的地である事に気付いたのは、地上城(ライトパレス)と地下城(レフトパレス)の境界が封印されている現実を突きつけられた時だった。
「封印?」
レフトパレスへの入り口と言う入り口、その全てに淡い光を放つ壁が立ち塞がっていた。しかも、よく目を凝らしてその壁を見つめれば、封印の壁が何重にもある事に気付いた。
「こんなモノがあるなんて・・・・」
ノヴァは肩から力が抜けていく感覚に襲われていた。一瞬、屈託のない笑みを見せるナラの顔が浮かび、ナラの立場を、地位を思い出した。
「あいつは・・・・Leftだ・・・・」
更にナラがフォースであったら、と言う考えまで及び、ますます気うつになっていった。
『Leftナンバーズの中級三番隊を統べる上位A-Kのフォース。あいつの策にはまったのだろうか・・・・』
ノヴァの頭の中では堂々巡りの考えが、浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返していた。
「あの・・・・もしや、姐さんでは?」
突然の声に振り返ると、そこにはかつてのハンター仲間、カ・ルファンがいた。短く刈り上げられた髪と、突き出た顎、筋肉質の大柄な体躯が特徴的であったが、ノヴァにとってはその容貌に似合わぬ信心深さのギャップで記憶していた。
「ファンか・・・・
お前もA-Kになったのか?」
いつもとは違う雰囲気を纏っている事にカ・ルファンは気付いていたが、気付かぬ振りをして訊ねられた事のみを答えようと思っていた。
「えぇ、Rightの下級三番隊のCランクっスョ。」
だが、彼の性格はそれを許さなかった。
「姐さんは流石に凄いっスね、バーバラ様の後釜で中級一番隊のAランクっスか。
その封印も素通りっスね・・・・」
その言葉でノヴァはいつもの凄みを取り戻した。と同時に、ノヴァよりも頭一つ大柄なカ・ルファンの襟首をつかみ、引き寄せる。
「その話し・・・・間違いないな?」
カ・ルファンは軽口を叩いた事を後悔し、冷たい瞳で見据えられた自分の顔が引きつるのを感じていた。カ・ルファンはどうにか『はい』とだけ答え、解放されてからもしばらくその場で硬直していた。
「通れる・・・・」
ノヴァが光の壁にゆっくりと手を当てると、触れた所を中心に淡い光が波打ち、何の衝撃も返ってくる事なく、手は壁の中へと入っていった。その感触は触れているのに触れていない。空気の様なものであった。
『まるで、あたし・・・・だな・・・・』
自嘲的な笑みを浮かべ、壁など存在しないかの様に大股で歩を進めた。しかし、長い階段を下りきったところで再びノヴァは足止めされる事となった。
「闇の・・・・壁?
Left側の封印か!」
そう、レフトパレスはこの通路一面を覆った闇色の壁のすぐ後に続いている筈なのだ。Rightの封印があれば、Left側にも封印があることは予想されて当然の状況であった。
だが、今のノヴァにはもう関係のない事だった。迷う事はないのだ。彼女の心は一つになっていた。
「ローザ!」
ノヴァは妹の名を呼ぶと、漆黒のカーテンに身をゆだねた。Rightである彼女は、何度か弾き出される覚悟で壁へと飛び込んだのだ。だが、その予想は再び大きく外れた。彼女は泥の中に身体を埋めた感覚を体験していた。光とは異なり、輝きあるもの全てを漆黒へと帰す闇。その無に近いものの何と存在感のあることか。
そんな全身を圧迫される状況の中、彼女は前進を止めようとはしなかった。止めようとはしなかったが、善戦空しくあっさりと排出されてしまった。
「くそっ!」
冷たい床に突っ伏し、吐き捨てたノヴァであったが、その後にやってきた、自分でもぞっとするほどの倦怠感に襲われた。
『闇に力を吸われたのか?それとも・・・・』
一瞬、このだるさに対する正答を得かけたが、彼女はそれを否定した。
「ローザを、助けなければ・・・・」
床のひんやりとした感覚を頬に受けながら、彼女はもがき始めた。ゆっくりと腰を挙げ、震える両腕で四つん這いになる。彼女はもう一度、闇の壁に挑もうと言うのだ。しかし、頭はうなだれたままだった。あの、漆黒の空間を見てしまったら、今度こそ動けなくなるような気がしていた。
『・・・・らしくないな・・・・』
気付いた様に動きを止めたノヴァは、頭を二三度振ってゆっくりと立ち上がった。
『・・・・もう一度だ!』
重い重圧を振り切り、闇の壁を凝視した・・・・はずだった。
《3》
ノヴァが力を振り絞り立ち上がった同刻、フォースは二週間前に訪れていた国、ランロードの王の間に現れていた。
「相変わらず、突然やってくるのですね。」
若い家臣らが慌てどよめく中、落ち着いた語り口で宙に浮くフォースへと語りかけたのは、彼女が帰国した後に女王の座に着いた少女、クイーン・アリシアであった。
「今回はどんな御用向きかしら?」
言われると、フォースはゆっくりと朱の絨毯の上に降り立ち、自らを光輝く翼で覆い隠した。そして、一閃の光が弾けた後、そこにいたのは、彼女ではなく、彼であった。
「この姿では初めて、かな?
ボクの名はナラ=ツインスター。
ナラって呼んでくれていいよ。」
この自己紹介に家臣の大半は激高し、衛兵を呼び立て、ナラを取り囲む結果となった。この状況において、アリシアは深く、大きなため息をついていた。
『なんでこうなるのかしら・・・・
まぁ、いきなり現れたフォース・・・・いえ、ナラ殿も悪いけど、話しも聞かずに衛兵を呼ぶなんて・・・・』
自分の家臣の愚かさに頭を抱えるアリシアに対し、ナラは自分を囲んだ兵士を指さし、にこやかに言った。
「倒して、いい?」
兵士達の嘲笑と罵声が上がったが、次のアリシアの言葉で彼らは一斉に引いていった。
「倒す前に用向きを聞きましょう・・・・
若きA-K殿・・・・」
兵士達の間に伝わる噂で唯一、世界中に正確に伝わっている噂がある。つまり【A-Kは死神だ】と・・・・
その注目のA-Kが目の前にいるのだ。名も無き一兵士の相手になろうはずがない。そんな兵士の様を見た若き家臣らは、彼らをけしかけようと怒鳴り散らすのだが、逆に『何も知らない貴族のぼんぼんは黙ってろ』と反撃され、兵士相手に罵声合戦を始めていた。
『女王の御前である。皆の者静まれ!』
罵声を鳴り止ませたのは、頭に直接鳴り響いた、魔剣シャグダリスの怒声であった。彼は千年もの前よりランロードを護ってきたガーディアンであり、初代王クイーン・アイシャを護るために魔剣となった恋人と言われる者だが、定かではない。今では封印を解かれ、アリシアを護るべく常に彼女の傍らに浮いているのだ。
『小僧共・・・・我を唯の飾りと思うなよ・・・・』
家臣と兵士一同に睨みをきかせた後、アリシアに先を促した。
「家臣の非礼は詫びましょう。
この国を救って下さった貴女、いえ貴方です。
突然の来訪程度、なんとも思ってませんよ」
ナラは促され、お決まりの文句から語りだした。
「ボクはフォースじゃないよ。
まず、その事を分かっておいて欲しいな。
・・・・で、用件だけど・・・・
アイシャ様の名を継ぐ者として、ガーディアンと共にウェンデルに来て欲しいんだ。
ボク達だけじゃ戦力不足なんだよ!」
アリシアは何故、自分が求められるのか分からなかった。確かに、アリシアと言う名は、【アイシャの名を継ぐ者】と言う意味だ。だからと言って、ウェンデルに行く理由にはならない。彼女は困惑していた。
そんな彼女を見てか、ナラはさらに一言付け加えた。
「・・・・シュウナ!
君は何が起きようとしているか知っているよね・・・・」
突然、シャグダリスの本名、人であった頃の名前、アリシアになりすましていた頃の名前を呼ばれ、彼はゆっくりとナラの前まで下りて行き、呆然としながら呟いた。
『世界の崩壊が、また始まるのか・・・・』
その痛いほどの悲しみに満ちた彼の心の呟きは、この場にいた全ての者に伝わり、アリシアは決断した。
「おつかいに出したマリームが帰って来る前に行きます!」
その言葉に吹き出してしまったナラだが、涙目をこすりながら彼女に握手を求めた。
「ありがとう」
そして、再び輝く翼を出現させた彼は、彼女、フォースとなって、アリシアと魔剣シャグダリスを翼で優しく包み込み、輝きがいっそう増した後に王の間一面を光で満たし、三人はランロードよりウェンデルへと転送された。
《4》
場面は再びノヴァに戻る。
彼女の眼前に闇の壁はもう無く、ただ一面の花畑が広がっていた。それだけではない。地下であるはずなのに太陽光と同様な光が降りそそいでいるのだ。
「これは・・・・」
ノヴァは驚きのため張りつめた緊張の糸が途切れ、ふらふらと花畑の中に歩み寄るとそのまま膝が折れ花の絨毯に身を埋めた。
『・・・・何でだろう・・・・
あたしはこの場所を知ってる気がする・・・・』
ノヴァは今そんな事をしている暇が無いのを知りながら、ただ自分に無い記憶に想いを馳せていた。
『・・・・何でだろう・・・・
ここにいると、とても嬉しくて、とても悲しい・・・・』
彼女は全身を包み込む倦怠感にあがらえずにいた。
『・・・・悲しい・・・・』
そのいち単語がノヴァの心にひっかかった。
そして目を閉じると、この花畑と同じ光景が広がり、彼女はその花畑に入る事が出来ずに、一歩離れて立ち尽くしていた。
『何故だ?』
広がった光景には二つの影が互いに戯れ、心の底からの微笑みを見せていた。
『何故、ローザが龍国人の女と一緒に居るんだ?』
影の一人は小さな女の子、ノヴァがA-Kに入団した目的、最愛の妹、ローザの姿であった。
『何で、そんなに、いい笑顔をしているんだ?
そんな笑みを見せた事・・・・無い・・・・』
幻のローザは、まるで自分の母親と一緒にいるかの様な満面の笑みを浮かべていた。
「ローザ・・・・ちゃん!
ローザちゃん!」
幻の中のノヴァは二人の方に手を振っていた。手を振り、ローザを呼んでいた。
『ちゃん?
あたしは、何でそんな他人行儀な言い方をするんだ?』
幻のローザは呼ばれて彼女のもとへと駆けてくると、そのまま飛びついてきた。
「ミーチャおば様!」
『おば様?』
声が木霊し、『オバサマ』と連呼されたノヴァの幻は歪み始めた。
「オバサマ・・・・」
ローザの顔が突然消え、龍国人の女もいつの間にか姿が消えている。
「オバサマ・・・・」
花畑は黒一色に染まり、歪んだ他の背景と混ざり合う中でも声はまだしている。
「おばさま・・・・」
やがて幻は消え、完全な闇と化した世界になお声は届く。
「叔母様!」
ノヴァはゆっくりと目を開け、けだるい身体を起こして見上げると、目の前にいつか見た数字が飛び込んできた。
『レフトのナンバーⅨ・・・・』
「叔母様、気が付きましたか?
叔母様・・・・」
その数字と言葉はノヴァを覚醒させ、倦怠感という重りから解放するのに十分すぎるほどのものであった。
覚醒した彼女は右腕から【刀】-龍国製の世界一斬れ味の鋭いとされる剣-を出現させ、立ち上がると同時に一歩踏み込み、眼前でノヴァを心配そうな面もちで見守っていてくれた一人の女性に、地から天を斬り上げる様に斬りつけた。
しかし、女性は顔色一つ変えず、その場に立ち尽くしていた。太刀筋が見切れなかったのだろうか。いや、違う。よける必要がなかったのだ。
ノヴァの剣撃は何か硬い物とぶつかり、乾いた音を立てて止まっていた。
「なんだ?これはっ・・・・」
ノヴァの刀より彼女を護ったのは、宙に浮いた一本の槍であった。しかし、唯の槍ではない事は明白。意志を持つかのように自動的に反応したそれは、まさに意志を持つ槍。魔槍であった。
「・・・・どうか剣を引いて下さい。」
ノヴァの冷たい瞳を一身に受けながら、彼女は静かに語りかけてきた。
「叔母様がお探しのローザは、既にゼブルエリアに転送されました。」
ノヴァはそれに応じようとはしなかった。しかし実際、ノヴァ自身が何を信じていいのかが分からなくなっていた。何が本当で、何が嘘なのか・・・・
『ナラを信じたあたしが馬鹿だったのか?』
疑念はノヴァを脱力させ、再び地に膝をつかせた。
『だったら、ナラは何故偽の情報を流した?』
ノヴァの瞳にいつもの冷たさはなく、自分の本当の感情を殺しきれずに涙を浮かべていた。そんな彼女を前に、渦巻く考えに回答らしき物を出したのはLeftの女性であった。
「それは、姉さんが・・・・叔母様を恨んでいるから・・・・
・・・・そして、ローザを愛しているから・・・・」
その言葉はノヴァをさらに感情的にさせ、すがりつく様にLeftの女性の襟首につかみかかった。
「ローザを愛しているなら、何故・・・・」
ノヴァの最後の言葉は声とはならなかった。しかし、その先をLeftの女性が続けていた。
「何故、力を使わせる・・・・
そう言いたいのでしょうけど、でも、力を与えられた者はそれを使わなければならないのよ。
力は否定できないの。
分かって・・・・叔母様・・・・」
最後はノヴァをなだめる様な口調となっていたが、ノヴァは彼女を突き放し、言い放った。
「力?
これが力か?」
ノヴァは胸に手を当て、言葉と同時に全身から白銀に輝く剣の刀身を出現させた。
「与えられた力か?
誰が、何のために与えた?
与えたのは誰だ!
あたしは・・・・誰だ?」
その問に、彼女は沈黙で答えた。
しかし、激昂するノヴァは納得するはずもなく、さらに彼女を問いつめようと口を開こうとした。だが、彼女はそれよりも早くノヴァを遮り、語りだした。
「【呪われた血の末裔】、【赤き竜】との契りをもって【終局】へと歩まん・・・・
【呪われた血の末裔】、【告知の天使( ガブリエル )】の囁きをもって【新しい都( エルサレム )】を召喚せん・・・・
今はそれだけしか言えません。
でも、全てはローザが知っています・・・・」
その言葉に、ノヴァは怒りで忘れかけていた当初の目的を思い出した。
『ローザ・・・・
ローザはどうしたんだ?』
ノヴァは少しずつ冷静さを取り戻しはじめた。彼女の特技とも言えるだろう、気持ちの切り替えのはやさを取り戻したのだ。
「時間が無いんだ・・・・
今すぐゼブルエリアに連れていけ・・・・」
冷たく据わった瞳でLeftの女性を射ぬく様はいつもの調子だが、Leftの女性がそれに動じないのは先刻承知の事であった。だが彼女はゆっくりとうなずき、ノヴァの要求をすんなりと受け入れたのだった。
「そう、時間が無いんです。
でも、その前にこれを叔母様に・・・・」
彼女は自分が両手に身につけていた、篭手に楕円形の楯がつき、さらに爪の様な物が生えている武具をノヴァに手渡してきた。
「なんだ?これは・・・・」
手渡されたものの、どうしたものかとノヴァはそれらを見つめていた。
「【飛爪獣牙( ひそうじゅうが)】・・・・
その完成版です。どうか使って下さい・・・・」
促されるままノヴァはそれらに腕を通し、動く際に邪魔にならないかと身体を動かしはじめた。そんななか、ノヴァは変な感覚に陥っていた。懐かしいような、嬉しいような・・・・
『何だろう・・・・初めてじゃない気がする・・・・』
動くのを止め、開いた掌を眺めていると、ノヴァを光が優しく包み込みはじめた。
「飛ばしますよ・・・・」
それはLeftの女性の背から流れ出していた。流れ出た光は翼を形作り、羽毛に包まれるよりも心地よい気分をノヴァに感じさせていた。
しかし、ノヴァは最後の疑問を口に出さずにはいられない衝動が沸き起こっていた。
「まて、最後に教えてくれ・・・・
何故、【叔母様】なんだ?」
返ってきたのは沈黙だった。
だが光が一層強まりノヴァが目を開けていられなくなった頃、今まさに転送されようとするその時、女性はノヴァの耳元に近づきそっと囁いた。
「母の【弥生】が叔母様の妹の一人だから・・・・」
ノヴァが次に目を開けたとき、そこには瓦礫と炎が暴れる戦場が広がっていた。
《5》
ゼブルエリア・・・・
A-Kの中枢にして、全てのA-K達に命令を発する参謀本部。
しかし、その中央ホールにはいるべきはずのAランクのA-Kはおらず、天使とも人ともつかない屍が折り重なって転がっていた。ただ、その中に一人立ち尽くす女性の姿が確認できる。
白いスーツは紅に染まり、赤で刺繍された十字架と【L-1000】の文字はすでに文字とは受け取れない。振り乱した長く赤い髪は戦火の中にありながら燃える事無く、炎と戯れるようにゆらゆらと揺れていた。
「何故、私達が貴女方の内輪もめに参加しなければならないのですか?」
彼女を遠巻きに眺めながら、アリシアはフォースをなじる様に言った。
ランロードより直接転送されてきたこの場所で、アリシアは見ていたのだ。炎と戯れる彼女が、ゼブルエリアにいたA-Kと言うA-Kを打ちのめし、引き裂き、天使化して昇天した彼らを捕まえ、消滅させる様を・・・・
「世界が滅ぶのではなかったのですか?」
アリシアは召喚された理由と違う現実を見せつけられ、少々苛立ち始めていた。それを知ってか知らずか、フォースはいつもと変わらぬ口調で語り出す。
「まだ、役者がそろってないよ。
彼女達が来なければ始まらない・・・・」
「どなたです?その方々は・・・・」
憮然としたまま、アリシアはたずねる。率直な返答は得られない事が分かっているだけに彼女の苛立ちは募る一方であった。
しかし、苛立ちもここまでであった。役者の一人、この崩壊する世界のヒロインの一人、ノヴァ=ディ=ドゥーディが二人と炎の女性との間に弾ける光とともに現れた。
「彼女は・・・・」
ノヴァを視認したアリシアは、二週間程前にランロード国で繰り広げた戦いの記憶を思い出していた。シュウナとしての記憶、魔剣としての記憶、アリシアにとってあまり良い記憶ではなかった。
「まずは一人・・・・」
フォースがつぶやくと、ノヴァが彼女に気付いたのだろう。足早にフォースの元に駆け寄ったノヴァは、そのまま彼女の頬をたたいた。
「痛いじゃないか!
何するんだよ、オバサン!」
たたかれた頬を押さえながら、フォースは抗議の声をあげる。しかし、そんな事は関係ないと言った面もちで、ノヴァはいつもの冷たい瞳で彼女を見据えると淡々と語りだした。
「ナラじゃないとは言わせない・・・・
一体何が目的なんだ?
邪魔をしたいのか?助けてくれると言うのか?」
言われたフォースは口元を緩め、ノヴァに疑問を疑問で返答した。
「それはオバサンが決める事だよ。
オバサンは何をしたいんだい?」
返答を求めるノヴァであったが、逆に問われた事に苛立ちはなかった。
むしろ、自分自身を考えずにはいられなかった。
『あたしは、何がしたい?』
フォースの問は続く。
「オバサンはなんのためにローザを求めるんだい?」
『護りたかったから・・・・』
「護りたかったから?」
『護らなければならなかったから・・・・』
「護らなければならなかったから?」
ノヴァの心が見透かされている様に、フォースはノヴァが思ったと同じ事を問うてきた。
「何故?」
『妹だから・・・・』
それは当然の想いだった。ノヴァの妹がローザである事はフォースが知るところであるし、幼い妹を思うのは姉の務めとも言えるからだ。だが、次の疑問は違っていた。
「妹だから?
それは違う!」
フォースは突然声のトーンを上げ、言い放った。
「ローザはボクの子だよ!
ボクがお腹を痛めて産んだ子なんだ!」
ノヴァは身体に電流が通り抜ける感覚を覚えた。
何処かで聞いた、とても悲しい結末の序曲となる言葉であることを、ノヴァは感じていた。
そして、無意識のうちに言葉が口をついて出ていた。
「フォース・・・・
ならば何故、ローザを捨てたりした?」
フォースは無言だった。無言だったが、眉をひそませるほど驚きを顔に出していた。
同様に、自分で言った事ながらノヴァ自身も驚いていた。
『あたしは、何を言っているんだ?
これじゃぁ・・・・ローザがあたしの妹じゃないみたいじゃないか・・・・』
驚きから先に立ち直ったのはフォースであった。
フォースはノヴァも驚きで固まっている事に気付くと、口元を少し緩めて先を続けた。
「答える事が出来なくなるのはオバサンの役目じゃないよ。
オバサンの台詞は【この子が、ウィルザー様の子だから?】だよ・・・・」
「それは・・・・」
ノヴァ自身、ほんの数時間前に聞いた台詞だった。
夢・・・・
いつもは覚えてなどいないのに、今朝みた夢はハッキリと回想する事が出来た。その夢の中で蒼い髪の女が言っていた台詞であった。
『何故知っている?』
「何故知っている・・・・」
先程と同じ様に、ノヴァはフォースに見透かされている様だった。
「・・・・とでも考えているのかな?
まぁ、正直ボクも驚いたよ。
半年前と全く同じ事を聞いて来るんだもんね・・・・」
ノヴァは微笑みを浮かべながら話すフォースを前に、嫌な予感がしていた。このまま彼女と話していると、ローザを完全に失ってしまう・・・・そんな焦燥感が沸き起こっていた。
「ローザは・・・・
ローザはどこだ!」
ノヴァは語気を荒らげ、ローザを求めた。しかし、フォースは意に介する素振りを見せず、先を語り出す。
「やっぱり、どんなに姿が変わってもローザの事は大切なんだね・・・・」
理解できなかった。ノヴァには、もうローザの事しか考えられないでいた。
「ローザはどこだ!」
これから、フォースの口より自分が求めていたものの答が語られると言うのに・・・・
「ボクはローザを捨てた。
それは否定しないよ・・・・
でも、こうなる事が分かっていたから、捨てたんだ!」
理解できないのは変わり無かったが、ノヴァはさらに語気を荒らげてローザを求める。
「ローザはどこだ!」
彼女自身がローザの妹ではない事を認めている様に、その思いを打ち消したいとあえぐ様に・・・・
「殺さないために捨ててきたのに、殺させるために連れ戻した・・・・
カレンのせいだよ・・・・世界が壊れるのは・・・・」
この言葉に、ノヴァの中にある何かが萎縮し、彼女自身の身体をも萎縮させた。だが、次のフォースの言葉はノヴァを迷いと焦りから解き放つには十分だった。
「ボクはローザを殺す・・・・
カレンは何をしたいんだい?」
ノヴァの答は決まっていた。
「ローザはあたしが護る・・・・
それに、あたしはノヴァだ。
カレンじゃない・・・・」
この時、今まで傍観者を決めつけていた少女、アリシアが口を開いた。
「これで役者もそろい、配役も決まった・・・・
そう考えていいのですね?」
かなりうんざりとした口調であったが、言い終わった瞬間、彼女の表情は一変した。
ノヴァを明らかに敵ととらえているのだ。
『つまりは、フォースの娘が何らかの理由で世界を崩壊させる原因となる。
だから実母であるフォースは、娘がその様な事をする前にこの世から旅立たせたい。
ところが、養母である彼女はそれが嫌で気に入らない・・・・
辛いところだけど、大局を見ればフォースが正しいのね・・・・』
敵ととらえはしたが、迷いが全く無いわけではなかった。まだ大人未満な年齢のアリシアにとっては辛すぎる、おそらく初めての女王としての決断であった。
「来なさい!
貴女を倒した後に、そのローザとやらも私が倒しましょう!」
アリシアは炎の中にたたずむ女性を指さし、ノヴァと対峙した。だが、その行為により気付いたのだ。ノヴァの背後にいる女性がローザである事に・・・・
「アリシア、よく気付いたね・・・・
彼女がローザだって・・・・」
「話しの筋から考えれば当然です。」
フォースの静かなつぶやきはアリシアのみに聞こえ、アリシアはノヴァから視線を外さず同様に答えた。二人は一抹の迷いを抱えてはいたが、完全に落ち着いていた。
しかし、ノヴァは二人とは違い、無防備にもフォースらに背を向けていた。数週間会わないでいた間に成人に近い体型にまで成長してしまっていたが、ノヴァは彼女がローザである事が直感的に分かり破顔していた。
「ロ・・・・ザ・・・・
ローザァァァッ!」
炎をかき分け、ノヴァはローザの元に走った。喜びの感情を全身に出しながら・・・・
だが、喜びの声は次の瞬間には悲鳴に変わっていた。
「ロ・・・・ザ?」
ノヴァとローザ、二人が数十日ぶりに一瞬笑みを交わした刹那、赤くねっとりとしたものがまとわりついた鋭利な物が、ローザの首より生えてきた。そしてそれはまばたきする間も与えずに、ローザの頚部を破壊していった。
まるで人形の様だった。人形の頭部が転がり落ちる様に、ローザの頭が彼女を抱こうと伸ばしたノヴァの手の中に転がり込んだのだった。
そして脳の統制を失った肉体は、ノヴァにすがりつく様に崩れ落ち、思い出したかの様に噴水さながらに血が溢れ出した。
ノヴァはローザの血が全身に打ちつけるのをそのままに、呆然と彼女の頭を抱いていた。
「どういう事です!
私はまだ何もしてません・・・・」
「そんな・・・・ローザが・・・・
ボクのローザが・・・・」
二人は慌て、混乱していた。アリシアはともかく、フォースですら予想していなかった人物が現れたのだ。
そう、五人目の役者は白銀の刃を紅く染め、炎の舞台に登ってきたのだ。
《6》
刀の様な得物を持つ彼女、五人目の役者は、長く蒼い髪をポニーテールにしてまとめ、まるで黒装束を着ているかの様に、裾の短いワンピース、その上に羽織ったコート、ハイヒールのブーツまでもが黒一色にコーディネートされ、肩口からのぞく浅い谷間にはリンリンと鳴る白銀のネックレスを輝かせていた。
「【ママ】・・・・」
フォースは思わずつぶやき、パニックから少しずつ立ち直りはじめていた。
だが、アリシアは今の言葉でさらに混乱してしまった。どう見ても一〇代後半から二〇代前半と言った容姿の二人が、一方は母であり、一方は娘であるとその一言は語っているのだ。順を追って話しをする事を美徳と心得ているアリシアにとって、突然の大きな情報は困惑の原因以外の何者でもなかった。
黒装束の女性は、【ママ】と呼ばれた事に気付いたのか、刀についた血糊を振り払い、いまだ立ち直れずに腰が砕けているノヴァの横を平然と通り抜け、二人の前にやってきた。
「ママ!」
フォースは眼前にやってきた彼女に対し、怒りをあらわに食ってかかろうとした。しかし、彼女の行動はそれよりも早かった。
「あなたは・・・・何人目?」
つぶやく様に問を発してきた彼女は、刀を持たぬ左手で優しくフォースの頬をなでた。すると、フォースの怒りの感情が急速に萎えていき、促されるまま彼女の問に答えていた。
「ボクはフォース・・・・
七姉妹の四女・・・・」
フォースの返答を聞くと、彼女は『そう』とだけこたえ満面の笑みを浮かべた。だが、笑みはそこまでだった。彼女がきびすを返した刹那、表情は厳しいものへとかわっていた。
「何をするつもりです!」
いちはやくその変化に気付いたアリシアは彼女を呼び止めた。
すると彼女はゆっくりと振り向き、抜き身の刀をノヴァに向け、ただ一言言い放った。
「彼女を殺します・・・・」
その言葉は、アリシアに彼女に対する嫌悪感を抱かせるのに十分であった。
「何を言っているんです!
貴女は彼女の姿を見てなんとも思わないんですか?
彼女には戦う意志が感じられないじゃないですか!」
アリシアは嫌悪感に任せ、感情的な口調で彼女に詰め寄った。しかし、言った後で少し後悔していた。ローザの首を、意に介する事無く平然とはねた女性に対し、今の問は無意味に感じたのだ。
「そうね・・・・」
彼女は少しうつむき小さく囁くと、アリシアの言葉に従ったのか、刀を引き鞘に収めた。
その彼女の行動ではアリシアの不信と嫌悪の眼差しを消すには足りず、アリシアはいぶかしげに彼女の目を見つめた。だが、彼女のピンクがかった紅い瞳は敵意を持っていなかった。
『分かってくれた?』
意を決し、彼女を諭そうと言葉を続けようとしたアリシアだが、彼女の方が先に語りだした。
「まず、貴女は思い違いをしている・・・・
世界の崩壊は彼女が死んで初めて止められるのよ・・・・
彼女がどうこうするのではなく、彼女の存在自体が崩壊の歯車なの・・・・
彼女を殺さなければ、この世界は滅ぶだけよ・・・・」
分かってはいなかった。彼女の口から語られたのは、ノヴァを殺す理由であった。
「でも、戦意の無い者を殺すなんて、神様が許されるわけありません!」
アリシアはそれだけ言うので精一杯であった。何度も困惑させられてはきたが、曲がりなりにも命の恩人たるフォースの母なのだ。アリシアは彼女が言っている事が正しいだろう事は信じないわけにはいかなかった。だからこそ言葉が詰まり、【神】と言う曖昧な存在にすがってしまったのだ。
だが、彼女はそれにも返答してきたのだ。意味深な言葉を含ませ・・・・
「そうね・・・・
神様はそんな事絶対に許さないでしょうね・・・・
世界を滅ぼせなくなるもの・・・・」
「何を・・・・」
『馬鹿な事を・・・・』
アリシアはその言葉を聞き流す事で平静を保ち、彼女の目を見据えた。そうしなければならない様に、アリシアは彼女から目を離す事が出来なかった。アリシアが目を離した瞬間に、彼女がノヴァを殺しかねない。そう思っていた。
「ふふ・・・・」
しかし以外にも、彼女はただ微笑みを返してきた。ただそれとは裏腹に、口から漏れた言葉は残酷なものであった。
「貴女がそんなに戦意にこだわるなら、彼女に取り戻してもらえばいいだけね・・・・
さぁ、立ちなさい!
貴女をあたしの手で殺すために、あたしはローザを殺したんだから!」
「!」
彼女は言い放ったのだ。まるでローザは殺される必要がなかったかの様に・・・・
『あたしは、何をしていたんだろう・・・・』
最愛の妹の頭を抱き、妹の血でスーツを朱に染めながら、ノヴァは腰が砕け床に腰を下ろしていた。舞散る炎がホールを焦がし、熱が床を伝ってきていたが、ノヴァにはさほどにも感じていなかった。
『やっぱり、無駄だったんだ・・・・』
ノヴァ自身、自分が自分ではなくなっている感じがしていた。
全てがどうにもならなかったと思い、ただただ、抱いたローザの頭を撫でていた。
「ママ!」
『フォース・・・・何を叫んでいるんだ?』
閉じ込もりつつあるノヴァであったが、外界の喧噪は聞こえてきていた。
「何をするつもりです!」
『いつかのお姫様?』
言葉が聞こえる度、ノヴァは引き戻される様な感覚を覚えた。
「彼女を殺します・・・・」
『誰だ?
懐かしい気がするけど、嫌な声・・・・』
ノヴァには無いはずの記憶というものを掘り返させるその声は、ノヴァの中に響いていた。
『誰だろう・・・・』
だが、その答えが見つかるはずもなく、その前にノヴァへと言葉が発せられたのだ。
「さぁ、立ちなさい!
貴女をあたしの手で殺すために、あたしはローザを殺したんだから!」
その言葉は、ノヴァを完全にこちらの世界に引き戻し、ノヴァに深い怒りと憎しみを植え付けた。
「キサマ・・・・」
ノヴァはローザの身体を床に寝かせ、抱いた頭をあるべき場所にそっと戻すと、右腕を怒りまかせに振り上げ、刀を出現させて彼女と対峙した。
怒りに紅潮するノヴァに対して、彼女の方は静かに左腰に構えた刀をゆっくりと鞘から抜き払った。
「これで、文句は無いでしょう?」
ノヴァを見据えたまま、彼女はアリシアに了解を求めてきた。
「そうかもしれませんが、これでは・・・・」
アリシアは嫌悪感も手伝って、不満を漏らしかけたが、最後まで言葉が続かなかった。
しかも対するノヴァは、待てずに彼女に斬りかかったのだ。
「何を話しているっ!」
ノヴァは真っ直ぐ振り挙げた刀を彼女の左肩から袈裟懸けに斬り払った。
しかし、それを彼女は右後方に飛び退いてかわすと、斬撃が通り抜けると同時に一歩踏み込み、無防備になったノヴァの頭部めがけて刀を振り下ろした。
だが、彼女の攻撃は肉体に届く事はなく、両肩より出現した二本の剣で受けとめられた。
「っく!」
彼女は呻くように声を漏らすと、足にかかる負担を省みず、後退すべく下半身に力を込めた。しかし一瞬遅く、後退できたもののノヴァが返した刀で斬り上げた切っ先は浅く胸をかすめ、黒のワンピースが斜めに裂け、白い肌がのぞいていた。
一度目の組合はノヴァが制していた。
「さすがにやる様ね・・・・」
間合いを取りながら彼女はつぶやいた。しかし、服が裂かれながらも彼女は冷静だった。しかも、さらにノヴァをあおる様な話しを始めたのだ。
「ミーチャの身体の中に入っている精神は誰のものかはしらないし・・・・
ミーチャの精神を基礎に構築されているフォースには悪いけど・・・・
あたし、ミーチャの事嫌いだったわ・・・・
だから、貴女も嫌い!」
彼女がはじめて見せる勝ち誇った様な表情をで、そうノヴァに言い放ったのだ。
「だから、ローザを殺したって言うのかぁ!」
怒り満身のノヴァの頭は、すでに『あの女を殺す』と言う一言に占領されていた。
そして、次の彼女が発した言葉の後、二人の勝負は決した・・・・
「・・・・姉さん・・・・」
地に突き立てられた槍を掴み崩れる様にかがんだ彼女は、腰までとどく深く蒼い髪に全身を覆われる形となる。当然、彼女の今の表情を窺う事はできないのだが、彼女の目に溜められた涙が大粒の滴となって地に落ちていた。
「彼女は貴女のお姉様だったのですか?」
近寄り難い空気を放つ彼女の背後にアリシアは近付いていった。
「私のせい・・・・ですね・・・・
私があんな事言ったから・・・・」
だが、その言葉を彼女は否定した。
「そんな事関係ないわ・・・・
あのヒトとあたしは、どちらか一人しか生き残れなかった・・・・
仕方無い事なのよ。
この壊れ行く世界に定められた律なのだから・・・・」
否定はしていたが、彼女の背中は小刻みに震えを見せている。それは彼女の言葉と心が相反するものである事を物語っていた。
「無理はいけないわ。
貴女は自分を殺している・・・・
そんな事をしていたら貴女が壊れてしまうわ・・・・」
しかし、アリシアのこの言葉で彼女の放つ空気が一変した。
「うるさい!
黙れ!【弥生】!
【表】に出るなぁ!」
悲しみの領域に侵入できたアリシアは驚き、一歩、二歩と後ずさった。
アリシアは【弥生】と呼ばれた事にではなく、彼女の放つ怒りの空気に気圧されていた。
「アナタが弱かったからあたしが存在んじゃないか!
アナタは自分が弱いと認めたくないんでしょ!
だったら邪魔しないで観ていなさいよ!」
彼女は震えを止めようと自分の肩を必死に押さえ込んでいた。
『黙れ』と言う言葉を連呼しながら・・・・
すると次第に震えの間隔が大きくなり、やがてそれは止まった。
「そうよ、アナタは観ていればいいのよ。」
震えが止んだ身体を解放し、彼女はすっくと立ち上がると大きく胸を張った。
「後はあたしが・・・・
あたしの子が全てを創り直すわ。
アナタとルーの子では無く、あたしとルーの子が!」
その時アリシアは気付いた。彼女がアリシアに見えない人物と会話をしている事に・・・・
「貴女は、誰なんですか?」
順序立てた行動を美徳とするアリシアであったが、今まで会った誰とも違う雰囲気を持つ彼女に、心の中より生まれいでた疑問を口にしていた。
「あたしは・・・・」
ゆっくりと振り返った彼女は小さく微笑み、その自信に満ちた姿は先ほどのそれとは全く違っている事をアリシアに認識させた。
「貴女は誰なんですか?」
そして彼女の口から、小さいがハッキリとした言葉がつむぎだされた。
「あたしは【飛鳥】・・・・
【破滅と再生の母】よ・・・・」
エピローグ
『また、あたしは夢を見ているのか・・・・』
何も見えない、何も無い、闇一色が広がるこの世界にはノヴァ一人が浮かんでいた。しかし、ノヴァ自身は浮かんでいるという感覚はなく、むしろ落ちている感覚を全身に感じていた。そう、まるで引き寄せられているかの様に闇をかき分け一直線に落下していた。
『・・・・?』
ここで初めてノヴァは疑念をいだいた。これは本当に夢なのか、と・・・・
ノヴァにとって、今感じている落ちる感覚のみでは何も分からなかった。しかし、何か違う。
『ここは、一体何処なんだ!』
叫びは闇が絡みつき、ノヴァ自身何処に、誰かに届いたなどとは思ってもいなかった。ただ黒一色の空間の中で落ちる感覚しか与えられていないのが辛かった。
『久しぶりね・・・・
ソードイーターのノヴァ・・・・』
声がした、何処にいるのか分からない誰かの声が聞こえてきた。
『誰なんだ?』
落ちる感覚はそのままに、ノヴァは首を回して声の主を探した。
『話してくれ、声を・・・・聞かせてくれ!』
明らかに懇願する様な声となっていることにノヴァは気付いているのだろうか。いつものノヴァらしくない、冷静さと冷酷さの欠けたノヴァであった。そんなノヴァを知ってか知らずか、長い静寂がノヴァの恐慌を助長させ始めた。
『我はアルファにしてオメガ、一にして一〇、原初にして黄昏・・・・』
ノヴァが恐れに捕らわれるより早く、彼女は声をかけてきた。しかし、その姿は見えない。暗黒のカーテンが邪魔をし、二人の間を大きく遮っているのだ。
『だが、今はそんな事は問題とはならないわ。
ノヴァ・・・・あなたは何を望むの?』
彼女は闇の先から問を発してきた。
『あたしは・・・・』
近い過去に聞いた覚えのある言葉だった。しかし、その時の様にノヴァを追い詰める事はなかった。彼女は優しく、優しくノヴァに語りかけてきた。
『ローザを護りたかったのよね・・・・』
その通りだった。その通りなのだが、ノヴァにはうなずく事が出来なかった。
『ローザはもういない・・・・
護れなかったんだ、あたし・・・・』
瞬間、闇をかき分ける速度が増した感覚に襲われた。ノヴァは得体の知れない、ざらざらとした物で撫でられる様な嫌な感覚に陥っていた。
『このまま落ちて、墜ちて、堕ちていくんだ・・・・』
ノヴァの負の感情は更にノヴァの身体を加速させた。
『大丈夫、ローザだってA-Kなのよ。
A-Kは死なないわ。
彼女の存在は消えないのよ。』
この言葉に、ノヴァは身体を震わせた。ノヴァ自身が思い出せる数少ない記憶の中から、ローザの右腕に刻まれた【TEST NO 1000】の文字が浮かび上がった。
『【LOSTナンバーズ】・・・・
正規のA-Kとは違う、特殊な能力をマテリアルより引き出す事のできた者達の集まりだけど、生存しているのは貴女達二人だけ。
どうする?』
ノヴァは闇を前に決断を迫られた。だが、ノヴァはあっさりと言い放ったのだ。
『ローザを助ける。』
その答に、闇の彼女は小さな笑い声を漏らしてきた。
『嬉しいな・・・・
ねぇ、ノヴァ!これであたし達、世界を再生する事が出来るのよ!
【飛鳥ママ】が必死で護ろうとしている世界を新生できるの!』
彼女の雰囲気が変わっていた。変わってしまったそれを感じ取ったノヴァは闇という壁の向こうで語りかけてくれてくれていたのが誰かが分かりかけてきた。
『お前は・・・・』
彼女の名を呼ぼうとした瞬間、加速は今まで以上にかかり、身体が千切れそうな気がした。そんな中、思わずあげたノヴァの悲鳴に彼女が優しく包み込むように語りかけてきた。
『ノヴァ、堕ちる刻は終わったの・・・・
考え方を変えてみましょうよ・・・・
貴女は今、飛んでいるのよ!』
彼女の声は、ノヴァに伝わった。しかし、時間は許してくれなかったのか、とうとう地面の様な壁が見えてきていた。だが、ノヴァは恐れなかった、恐れるどころか、自らの身体に加速をつけ、地面へと飛び込んだのだ。
瞬間、目映いばかりの光に照らされ、ノヴァは手で目を覆った。闇から突然光の渦に投げ込まれたノヴァに、目を開け周りを見ろというのは酷であった。
『ようこそ・・・・
もう一人の王冠を抱きし資格のある者よ・・・・』
彼女の声であった。彼女はまだ目が眩んでいるノヴァの手を取り、何処かへと引き連れていった。その時ノヴァは直感したのだ、彼女がローザである事に。
『ローザ・・・・だろ?』
ノヴァに対する彼女の答は、YESだった。
この時、長きに渡る離別の刻を経て、二人は再会した。
『ノヴァ・・・・
今、この瞬間、【聖母に与えられし王冠】はノヴァの魂に刻み込まれたわ。
さぁ、下界に還りましょう・・・・
古き世界に鎮魂の囁きを、新たな世界に祝福の鐘を鳴らしに・・・・』
《再会は離別の始まり 完》
ミレニアム Ⅰ
「・・・・死んだ・・・・」
世界の中央に位置する幻の国【セフィロト】、そこにある世界樹の遥か上空には【ミレニアム】と呼ばれる国があった。いや、国と呼べる存在なのかどうか・・・・そこは常に世界の上空に在り、監視を続けていた。
その監視をする中央管理センター、通称【ゼブル】には二人の男がいた。
立体型空間投影ディスプレイを前にコンソールに両手をつき、そのままうなだれているのは先ほどつぶやきを漏らした男である。
眼鏡をかけた彼の名は新堂真(しんどう まこと)。年の頃なら二〇代前半で、ジーンズにハイネックのシャツの上からロングの白衣を着込んでいる。
「なぁにが【死んだ・・・・】だ・・・・
この、職権乱用男が!」
パン!とファイルで真を叩いてきたのはもう一人の男、石崎直(いしざきなお)である。長身の彼も真と同じく白衣姿であり、同い年の真とは十年来の親友であった。
「【A級市民】のお前が【D級市民】にうつつをぬかすとは思わなかった・・・・」
腕を組み、大げさにうんうんうなずくと、真の隣の椅子にどっかと腰を下ろした。
「で?
愛しの【弥生】ちゃんが死んだのか?」
直はへらへらとしながら、未だコンソールでうつむいている真をのぞき込むようにして聞くと、真は静かに答えた。
「今は【飛鳥】だ。
それに、死んだのは彼女じゃない・・・・」
直が『じゃあ誰だよ』と促すと、真は先を続けた。
「【弥生】と【飛鳥】の異母姉だよ・・・・
思えば、彼女は可愛そうな女なんだぜ・・・・
本名は【鳳龍香憐(ほうりゅうかれん)】っていってね。
幼い【飛鳥】を守れず、殺された事が心の傷になっていたんだろうな・・・・
【三人目のウィルザー】の娘、ローザを引き取って育てるって言い出したんだ・・・・」
「罪滅ぼし・・・・ってやつか・・・・」
直は誰に言うでもなく、ただつぶやいていた。
「そう・・・・」
だが、それに真は応え、話しはまだ続いていった。
「カレンはローザを妹の様にして育てていたよ。
まぁ、ローザはカレンママって呼んでいたけどね・・・・」
長い話しにそろそろ苛立ちが直に現れはじめていた。真の性格で言えば話し好きなのはいいが、要点や主旨がまとまらず、話しがわき道に逸れる事が多々ある。対して、直は自分が話しの主導権がないと気分的に余り良くない面を持っている。真の長話で直のそれが出始めたのだ。
「で、結局何?
何で【マコやん】は辛そ~な顔してるわけ?」
要点だけを言ってくれといわんばかりに、直は自分から聞きたい点を指定してきたのだ。
すると、真は一瞬肩を震わせたかと思うと、ディスプレイに目を移し静かに言った。
「【飛鳥】に、【カレンの精神をペーストしたノヴァという女性】を殺させたんだ・・・・」
「ひでぇ野郎だな・・・・」
呆れながらも、間髪容れずに直がつぶやく。だが、そのつぶやきは次第に怒気をはらんできた。
「お前、あの娘・・・・【飛鳥】が好きだったんだろ・・・・
危険を顧みず下界に降りていったマコやんは何処に行ったんだよ!」
直は真に詰めより、襟首をつかんでうなだれる真を引き上げた。
「なんでそんな事させたんだ!」
直はつかんだ真を激しく揺さぶり、真の真意を問いただそうとした。だが、真は顔を直から外らし、ディスプレイを見つめていた。
「【飛鳥】をA級市民にしたかった・・・・」
真のつぶやきは、直に届いていた。しかし、直は手を離さなかった。『なら何故・・・・』と言う想いが強かったのだ。
『仕方がないんだ・・・・』
真はディスプレイに映し出されている、変わりゆくゼブルエリアの映像を見ながら心の中でつぶやいていた。
『俺がどんなに手を尽くしても・・・・世界の崩壊は止まらない・・・・
ほら、ね・・・・』
ディスプレイには二つの骸、かつて女性であった二つの肉塊が蠢き、混ざり合い、人の形になってゆく場面が映し出されていた。
『いくら俺が代わりを造っても、いくら俺が不確定要素を組み込んでも・・・・
結局【聖母(マリア )】が出現してしまった・・・・』
映し出されたそれは、ゆっくりと艶やかな曲線美を形成し、見慣れた一人の女性の姿となっていった。
『ノヴァ・・・・それともローザか?
どちらにせよ、この暴走する世界は止められない・・・・』
ディスプレイに映し出された女性はゆっくりと天に手をかざし、次の瞬間、目映いばかりの閃光で画面は白一色に染められていた。
『今、この瞬間、世界は崩壊するんだ・・・・』
(第四話 『再会は離別のはじまり』 了)
アルファポリスの
『第二回ファンタジー小説大賞』
にエントリーしています。
応援クリックをお願いいたします!
ランキング参加中! 現在何位? 確認兼ねて、応援クリックよろしくお願いします!