【八十神の舞】神々の舞う地、神代市を舞台につむがれる物語。

八十神の舞トップ  > 第一話『トウソウする者達』

2009年09月27日

【another】第一話『トウソウする者達』

「聞いて驚け!昨日、サウザンドを追い返したのは俺様だぁ!」
一人の酔っぱらいの戯言が、この酒場『堕天使の翼』に静寂をもたらした。
そして、その酔っぱらいに向けられる冷たい視線。
酔っているとは言え、この異常な場の変化にはさすがに気付く。
「馬鹿野郎!」
怒鳴るや否や、男の連れが慌てて周囲に弁解を始める。
「すまねぇ!こいつ、初めてなんだ。だから、な、許してやってくれよ。」
しかし、周囲から返ってきたのは死刑宣告のような一言であった。
「それを決めるのは俺達じゃねぇ。」
「そうさな・・・・」
「あぁ、俺達じゃねぇ。」
そして、視線は彼女に向けられる。
彼女・・・・ノヴァ=デ=ドゥーディに・・・・
冗談みたいな名前だが、今の彼女には仕方の無い事だ。
”今日も(Today)”彼女は”誰でもない存在(Nobody)”なのだから・・・・
「ノヴァ姐さん・・・・」
ホラ吹きの連れが、彼女を見て引きつる。
これも仕方の無い事だ。
別に、彼女の風貌が醜悪であるとか、女性の割には身体が筋肉質であるとか言うためではない。
むしろ、美人・・・・と言うより可愛いと表現されるような二十歳前の女性に見える。
ただ、顔に似合わない物が三つ。
一つは軽戦士風の装備。そして・・・・
可愛い顔を台無しにしている頬の爪痕と、冷たい瞳であった。
そう、連れの男は何よりも、その冷たい瞳に見据えられた事に恐怖しているのだ。
「サウザンドについて知っている事を話せ。」
淡々と問いかけてくる彼女に対し、ホラ吹き男は立ち上がり、剣を抜いて答えた。
「ここは強い奴が認められる国だ。あんたがそうとは思えねぇ・・・・」
「あたしもそう思う・・・・」
座ったままで答える彼女。
「お前がそうとは思えない。」
表情に変化を見せない彼女に対し、安酒の助けもあってみるみる紅潮するホラ吹き男。
「言わせておけばぁ!」
そう、それは一瞬の出来事だった。
彼女に振り下ろされたはずの剣は跡形もなく消え去り、男は剣を構えたままの体勢で硬直した。
再び訪れた沈黙の中、ホラ吹き男は考える。
『剣はどこにいった?・・・・酔いが回ってどこかにブン投げちまったのか?』
答は出ない。出ようはずもなかった。
「お前に手品を見せてやろう。」
彼女は先ほどと変わらぬ、座ったままの体勢で右手を男の前に突きだした。
この時、男は自分が相手にした女の、得体の知れない行動に恐怖し、何故こんな奴に喧嘩を売ったのかと自分を呪った。
そして、それはゆっくりと女の右の掌より現れた。
剣の切っ先、刀身、見覚えのある細かいキズ・・・・
そう、紛れもなく自分の剣そのものであった。
「う・・・・うわぁぁぁぁぁっ!」
そのまま弾き飛ばされるように、腰から落ちるホラ吹き男。
「まさか、ソードイーター・・・・」
バタバタと床を転がるように後ずさる男に対し、虫を踏み潰すときのような何の感慨も持たない表情で、彼女は言い放った。
「知らぬなら、死ね!」
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
恐怖、恐怖しか現れぬ男の顔めがけ、完全に姿を現した男の剣を投擲する体勢に入った。椅子に座したままで、どの程度の威力が得られるのか疑問であったが、男にそんな事を考える余裕は無かった。
今、まさに剣が放たれようと言う瞬間、彼女に”止め”が入った。
「だめぇぇぇぇぇぇぇっ!」
この酒場で唯一、彼女を止める事のできる人物。
パジャマ姿でうさぎのヌイグルミを抱えた、およそ酒場にふさわしくない姿の女の子。
彼女の妹、ローザであった。
「だめだよ、そんなことしちゃぁ!
そんな事したって、何の解決にもならないよ!」
ここに至って、ノヴァが初めて笑みをもらす。
それが何を意味するのか、気付いたときには剣が放たれていた。
「うわぁぁぁっ!」
ホラ吹きとは言え、その男もプロであったのだろう。
わめきつつも、剣の軌道を瞬きする事無く追っていた。
「あたしもそう思う・・・・」
剣は男の足元、床に深々と突き刺さっていた。
「クソ!馬鹿にしやがって・・・・」
男が連れに肩を抱かれ姿を消すと同時に、酒場に喧噪が返ってきた。
「また、満月がくる・・・・」
ノヴァの呟きは、ここにいる誰にも聞かれる事はなかった。

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Angel-Knights
-another-

第一話  トウソウする者達

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《1》

神暦0999年。
ここ、ウェンデル国首都ウェンデルの都では、ハンター達が闇を徘徊していた。
この都には正式な衛兵、警備兵と言う者は貴族区画にしかおらず、一般市民に対する犯罪が横行していた。
それを改善し、市民を護る者が必要と考えた王子ウィルザーは、市民による市民護衛隊を結成。
彼らは、ハンターと呼ばれ、犯罪者に恐れられた。
犯罪者と戦うからには、それ相応の見返りが欲しかった。
そこでウィルザーは考えた。
結果、1:犯罪者に賞金をかける事、2:ハンターとして実績を積み上げた者には、この国の騎士団Angel-Knights:A-K(アーク)への編入が与えられる事となった。
撒き餌は上々、魚は食いついた。
おかげで、犯罪件数は減り、とうとう賞金首は一つとなった。
名は、『サウザンド』。
3ヶ月前に突然現れた奴は、満月の日にのみ現れ、千の姿を持つ化け物だという。
奴と戦い、還ってきた者は少なく、決して群れる事の無かったハンター達が協力するほどであった。
そして、この物語の主人公であるノヴァ=デ=ドゥーディは、ハンターズギルドの一つ、堕天使の翼のハンター達を束ねていた。

「嫌な光だ・・・・」
天を仰ぎ、呟くノヴァ。
そこには、蒼白い光をたたえる満月があった。
「ノヴァぁ~、いっちゃうの?」
その問に、ノヴァは無言でローザの頭をポンとたたく。
ローザを前にしてさえ、その表情に変化を見せない。
「お前は一度、襲われているんだ。
外に出ないで寝ていろ。」
そのままローザを酒場に押し戻し、屈強そうに見える男どもを従えノヴァは闇に消えた。「ノヴァぁ~、ローザ恐いよ・・・・
何もできない、何も覚えてないローザが恐いよ・・・・」
ローザはうさぎのヌイグルミを、ぎゅぅぅっと抱きしめ、がらんとなった酒場をうろうろしはじめる。
「後で、ホットミルクを持って行ってやるよ。蜂蜜をちょっとたらしてな!」
見かねたハゲでヒゲのマスターが、イタズラっぽく笑って見せた。
しかし、ローザはマスターの方を見る事も無く、酒場の二階にある二人の部屋にトボトボ帰っていった。
「やれやれ、仕方ねぇか・・・・」
呟いて、薄くなった頭を二三度かいて見せるマスターの背後から声がした。
「あぁ、仕方ねぇさ、あの女が悪いんだ。」
鈍い音とともに、マスターの意識が途切れた。
そして、崩れるように倒れたマスターの背後に立っていたのは、先日のホラ吹き男であった。
この瞬間、ハンターになるべく地方から売り込みに来たホラ吹き剣士、ナイルズは犯罪者となった。
「殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!・・・・・・」
呟きながら、二階に歩を進めるナイルズ。
その表情は怒りを通り越し、喜び・・・・
この男の頭のネジが、確実に二三本外れていた。
そして、二階にある三つの部屋を一つづつ蹴り破る。
「どこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
どこに居やがる、あの小娘どもぉぉぉぉぉぉぉっ!」
二階には、ヒトが居なかった。
代わりに、最後に入ったローザの部屋には・・・・
化け物がいた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ナイルズの表情は恐怖とともに凍り付き、そこから一歩も動く事ができずに立ち尽くした。
化け物はそれを不思議に思ったのか、首を傾け、ナイルズに近づいてきた。
「ばっばっばっ化け物ぉっ!」
その言葉に、化け物が身体を震わせる。
そして、化け物の身体が流動し、男が見慣れた姿へと変化する。
か細い腕、ふくよかな乳房、穏やかな美しい笑顔。
間違いなく、人間の女性のそれであった。
上半身は・・・・・
「ヘ、ヘヒッ、ヘヒッ、ヘヒヒヒヒヒヒヒヒ・・・・」
女性の姿となった化け物はナイルズの頭を胸に抱き、次の瞬間、ナイルズの頭部が無くなっていた。
「クォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
奇声をあげ、再び姿を変化させながら、化け物はローザの部屋の窓を破り、天に舞い上がった。
砕けたガラスの反射光に彩られ、さながら天使のような姿を月に映し・・・・・・・・


《2》

ノヴァが酒場『堕天使の翼』に戻ると、彼女が倒れていた。
「ローザァァァァァッ!」
ノヴァの妹、ローザである。
ノヴァはいつになく慌て、叫びながら駆け寄った。
ローザを抱き起こすと、ようやく昇った太陽の光にローザがキラキラ輝いた。
「この傷は・・・・」
さすがのノヴァもこれには驚きを隠せなかった。
あちこちにできた小さな傷から出た血、それが細かく砕けたガラスをローザの身体中に張り付けていたのだ。
ノヴァは、ガラスが刺さっていないか、それだけを心配して彼女の小さな身体を慎重に調べた。
好運にも、彼女の身体にガラス片は刺さっていなかった。
それ以外の傷は、何故できたのかが識別できなかったが、命に関わる様な物ではないと分かり、ノヴァはひとまず胸をなで下ろした。
「嬢ちゃんは大丈夫かい?」
一人のハンターが心配して声をかけてきた。
ノヴァは慌ててローザの右腕を隠し、大丈夫だと返事をして彼女らの部屋へと運んだ。
そして、ローザの意識が戻ったのはその日の夕刻であった。
「何があったの?」
酒場の二階にある一室、ノヴァとローザの部屋である。
当然、ローザの意識がないうちに部屋はきれいになっていた。
どこかで見たような首無し死体は処理され、何事もなかったように部屋の家具類は整然と整えられ、あまつさえ燭台に炎がともっていた。
「まさか、また来たの?」
一階の男どもには決してみせない優しい顔で、ローザに訊ねた。
その問に、ローザは身体を震わせ、ただうなずくだけであった。
ノヴァは考える。
『何故、サウザンドはローザを付け狙うのか?』
『何故、それがローザなのか?』
自分の記憶さえままならないノヴァにとって、それは大きすぎる難題であった。
「ノヴァ~」
涙目で抱きついてくるローザを抱え、ノヴァは一つの決意をした。
「次の満月の夜までにサウザンドをつかまえる。だから、心配するな!」
その表情は二人だけの『優しいノヴァ』ではなく、ハンター『ソードイーターノヴァ』のものとなっていた。
「ノヴァ~」
その、ローザの鼻にかかった声に後ろ髪を引かれつつも、ノヴァはその部屋を後にした。
しかし酒場におりたとき、先ほどの決意を揺るがす事態が起こった。
撹乱である。
「姐さん、俺達ゃぁ今回の戦いで分かった。」
今回、サウザンド狩りに同行したハンター達である。
「あぁ、その通りだ!毎回死人が出てねぇのが『堕天使の翼』の自慢だったが、俺達は姐さんについていけねぇ!」
どうやら、そいつらが他のハンターを扇動しているらしい。
「どうしろと言うんだ?」
ノヴァは怒っているのだろうか。いつにも増して瞳が冷たく光る。
「頭から降りてもらう。」
決して背が高い方ではないノヴァは、屈強そうな男どもの壁に見おろされる。
しかし、冷たい瞳は輝きを失わない。
「この国は・・・・強い奴が認められるんだろう?」
ノヴァに見据えられ、壁となっていた男達に亀裂ができはじめる。
「た、確かにそうだ!だが、それも人間同士の話しだ!
姐さんも見たろう!ありゃぁ・・・・バケモンだ!」
「そうだ!傷を付けてもすぐ塞がる!俺が見たくねぇ姿に変化しやがる!」
「人間同士ならやっていけたさ!だが、俺達ゃ、A-Kじゃねぇんだ!ただの人間なんだ!」
しかし、ノヴァの答は変わらなかった。
「人であろうが、化け物であろうが変わりある物なのか?力と言う物は?」
同じく、ハンター達も考えを変えるつもりはなかった。
「俺達は死にたくないんだ!肉親が何度も襲われてるあんたとは違うんだよ!」
止めの一言を言ったハンターは、まずい事を言ったと後悔しながらも、ノヴァを見下す姿勢を取り続けた。
「そうか・・・・
ならば、臆病者は不要!『堕天使の翼』を出て行け!」
この、ノヴァの台詞にどよめきが起こる。
ノヴァに罵声を吐く者、自らの力を省みる者、どちらともつかずに同じ様な考えを持つ者に同意を求める者。
罵声を吐いていた者達が剣に手をかけたその時、マスターから止めが入った。
「止めるんだ、オマエら!」
そして、次にマスターが口にした言葉はノヴァにとって思いがけない言葉であった。
「ノヴァ、お前は台風の目だ!」
この一言で、ノヴァは全てを理解し、この場に仲間が一人も居ない事に気付いた。
「俺達全てを巻き込む前に・・・・『堕天使の翼』を去ってくれ・・・・・」
この言葉に一瞬表情をこわばらせ、言おうと思った言葉を飲み込んだ。
『せめて、ローザだけでもここに置いておいてくれ。』
無理な相談である。
サウザンドの標的となっているローザを置いておけるはずもない。
どうやら見切り時のようだ。
ここにいては、協力を得るどころか邪魔され兼ねない。
ノヴァは彼らの要求を受け入れた。
「わかった。」
そのままきびすを返し、階段を昇ろうと二階を見上げたその時であった。
パリィィン!
二階から響いた音。
紛れもなくガラス窓が破られた音であった。
そして、間を置かずして外に何かが振ってきた。
ダンッッ!!
大きな振動が酒場に伝わり、一階の窓ガラス全てが
酒場の中に飛び込んできた。
音にせよ振動にせよ、ローザの様な小さな女の子が出せるようなモノではなかった。
「まさか・・・・サウザンド!」
満月の夜を待てず、人に似て非なる醜悪な姿をさらし、奴は現れた。


《3》

「サウザンドォ!」
ノヴァは奴から逃れようとする男どもをかき分け、外に出た。
奴の姿は左半身が男で、右半身が女。前腕から急に太くなった両腕には手関節がなく、五本の鋭い爪が生えていた。そして、植物の根のような足は八方に伸び、地面にしっかりと根を下ろした。
「そんな・・・・」
滅多な事では驚かないノヴァはその姿に恐怖を覚えた。いや、姿ではなく、街の明かりに覗いたその顔にだった。
左半分はノヴァが一度だけ会った事のある男、先日のホラ吹き男。
そして、右半分の女の顔は・・・・
「ロー・・・ザ?」
随分と大人びている。そのうえ、出るところは出て、引っ込んでいるところは引っ込んでいる。まぁ、上半身な上に右半分だけだが・・・・
「くっ・・・・・キサマ得意の幻惑か!」
吼えて、半歩踏み込み、右腕を横薙に払う。
すると、剣を持っていなかった筈の右腕には長剣が握られ、周囲の空気を振動させるような悲鳴とともに、サウザンドの腹部に横一文字の紅い線が描かれた!
「クルォォォォォォォォォォン!」
一瞬の間を置き、奴の腹から血が弾け飛んだ。
返り血を浴びたノヴァは全身を紅に染め、次の斬撃を繰り出すために長剣を捨てた。
そして、素早く頭上に両腕を組み、右腕より鉄の塊を出現させた。
そう、まさに鉄塊、通常の大剣よりも大きく、長い剣・・・・『だんびら』と呼ばれるモンスターソードであった。
「くらぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
止めとばかりに放たれたその一撃は、一撃必殺。どの様な大柄な男であれ、サウザンドの様なモンスターであれ、両断できる威力を持っていた。
しかし、ノヴァの一撃はサウザンドの能力によって回避された!
「ノヴァ~」
右半分だけであったローザの姿が左半身へ侵食、瞬き一つにも満たないほんの少しの時間で、上半身全てがローザの姿へと変化していた。
決して体格が大きいわけではない彼女のどこに『だんびら』を保持できる力があるのだろう。彼女はサウザンドの頭を打ち砕く寸前、剣を止めてしまった。
当然、こうなる事を予想していたサウザンドは、先ほど斬られた腹部より下・・・・大地に根をはった植物のような下半身を切り離した。
切り離された根はうねり、大地を揺るがせた。
ノヴァは後悔するより速く、『だんびら』を根に叩きつけていた。
大地の脈動はおさまったが、サウザンドは鋭い爪を羽へ、両腕を純白の翼へと変化させ、天に舞い上がった。
そして、再びサウザンドに逃げられた・・・・
「くそっ!」
ノヴァは粉々に砕けた石畳に両腕を叩きつけ後悔する。
『何故、あそこで剣を止めたのか。』
彼女自身、あれがローザではないことがわかっていた。
『分かっていた筈なのに、何故止めた!』
自問自答する彼女に分かるのは二つ、これで確実に『堕天使の翼』を出て行かねばならない事と、ローザが行方不明になったと言う事だった。
「ローザ・・・・あたしの、仲間・・・・」
ノヴァは、無意識に口にした言葉の意味に気付く事無く、街の闇にのまれようとしていた。
しかし、変な男・・・・いや、年の頃は17、8か?黒衣の変な少年に腕をつかまれた。
「ちょっと、オバサン!ボクにつきあって!」
ノヴァは自分の年を忘れていたが、少なくともオバサンと呼ばれるほどこの少年と年が離れているとは思えない。
だが、抗議の声をあげるより速く、そこに着いていた。
人通りの少ない路地裏、近くにゴミが散乱しているのか、鼻につく異臭が充満していた。
「あれだよ、オバサン。」
指さされたその先には、紛れもない、両腕を翼にしたままのサウザンドがいた!
どうやら、下半身の再生を行っているようだ。腹部が脈動し、美しい女性の脚線を創り出す。同時に、翼であった両腕も女性のそれに変化を始めた。
「サウザンドは・・・・女?」
「そうさ、すげぇだろ。あいつは、いつもここで変身を解くんだよ。」
ここに至って、初めてこの少年の存在と行動に不審を抱く。
「ナラ=バクスプール=ツインスター。」
何者と聞く寸前、それを遮るように自己紹介をした彼は、同業者・・・・つまり、ハンターであると付け加えてきた。サウザンドを見つけても一人では対抗できない、ソードイーターの通り名で有名なノヴァを見つけたので助けてくれ、と言うのがナラの言い分である。
そして程無く、ノヴァは協力を受け入れた。
この少年の言葉がノヴァにとって抵抗しがたいモノであるかのように。
「オバサン!サウザンドが!」
そう、サウザンドが一人の女性の姿になったかと思えば、今度は身体が縮みはじめていた。
そして、変化が完全に止まったとき、一人の協力者を得たと同時に、一人のかけがえの無い『者』を失った。
そこに立ち尽くしていた少女は、サウザンドの正体は・・・・ローザだった。


《4》

「ローザ・・・・・・」
街道から微かにもれる光に照らされ、小さな女の子の一糸まとわぬ姿が映し出される。
間違いなくローザであった。
しかし、その目は虚ろで、まだ満月のように見える月を眺めていた。
「どうするんだい?オバサン。彼女がサウザンドだよ。」
ナラは二人の関係を知ってか、知らずか、剣を突き出し『倒そう』と促してくる。
もちろん、ノヴァの答は『NO』であった。
ノヴァにとって、彼女はかけがえの無い・・・・
『ローザはあたしにとって何なんだ?』
自問自答する彼女は、覚えている中で最も古い記憶を呼び起こそうとしていた。
そして、思いだしたのは3ヶ月前、『堕天使の翼』のマスターに拾われた雨の日の夜であった。
しかし、もう二人が一緒にいた。
それ以前の記憶はない。思い出せないのだ。
ノヴァの苦悩する様を見て、ナラは理解できないという様に眉をひそめる。
確かに、放心状態の様になっている今なら、サウザンドを倒す絶好の機会なのだ。
ハンターであるナラにとって、それは当然の反応である。
だが、ノヴァにとって、そこにいるのは『ローザ』であって、『サウザンド』ではない。
同じ様に、過去を思い出せない少女なのだ。
「仕方無いなぁ・・・・」
みかねたナラは、腰から下げたサーベルを鞘から抜き払う。
「オバサンが殺らないなら、サウザンドの首はボクが貰うよ。」
玩具を貰った小さな子供の様な純粋な微笑みをノヴァに投げかけ、サウザンドの前に躍り出た!
一瞬遅れてナラの行動に気付いたノヴァだが、彼を止める事ができなかった。
ナラを前にしても月を見上げ続けるサウザンドの首を、彼はハネ飛ばした。
「ローザァァァァァッ!」
彼女の首は弧を描きながら中に舞い、華奢な身体は彼女の背後に跳ね飛ぶように倒れた。ナラはそこで一抹の違和感を覚えたが、ノヴァはそれを感じるより早く、走っていた。
ナラの満面の笑みを浮かべたキレイな顔を張り倒し、何もできなかった自分を呪いながらローザの首に駆け寄った。
しかし、そこにあったのは唯の肉塊・・・・ローザの顔とはほど遠いモノであった。
「これは・・・・」
ここに至って、ノヴァは目の前にいるローザはサウザンドである事を深く認識させられた。
これは、ハネ飛ばされたのではなく彼女が切り離したのだ。
ノヴァが振り返ると、首を失った小さな女の子の身体はゆらりと立ち上がり、飾り物の頭部を再生し始めた。
そして再び小さなローザとなると、ナラが気を失っている事を確かめた後、語りだした。
「ノヴァ~!」
いつもの甘えた猫なで声、本当のローザがいるようでノヴァには辛いモノであった。
「言え!ローザをどこにやった!」
ローザのノヴァではなく、ハンターノヴァの口調で彼女に問いただす。
ローザが生きている望みが低いために彼女をそうさせたのかも知れない。
再び、強い口調で同じ質問をサウザンドに問う。
すると、猫なで声のまま、サウザンドは一言言った。
「あたしは、記憶が戻ったよ・・・・」
ノヴァは、この言葉を理解するのに少しの時間を要した。
『記憶が戻った?』
「何を訳のわからん事を!」
ノヴァは『サウザンド=ローザ』と言う考えを頭の中から排除しようと、更に語気を荒らげる。
しかし、その一言を言うためにサウザンドに近づいてしまった事が今の考えを肯定してしまったのだ。
「その入れ墨は・・・・」
『TEST No.1000』
街道の光が彼女らを照らしたとき、サウザンドの右腕に入れられた文字が見えてしまったのだ。それは、ローザのそれと全く同じ物であった。
二人しか知らないはずのそれを、飾りや、呪術的文様でもないのにつけるとは考えにくい。
ノヴァは苦悩の末、認めた。
「ローザなのね・・・・」
「ノヴァ~
あたし、恐かったよ。満月の度に知らない自分が顔を出すの!
恐かった・・・・でも、分かったんだよ。」
矢継ぎ早に語るローザに対して、ノヴァのなんと静かな事か。
彼女には、何も語る事ができずにいた。
「あたしの敵が分かったんだよ・・・・
なんにも知らないあたしをこんな身体にした・・・・
でも、ノヴァは違う!
あたしとは違うんだよ・・・・」
ローザの静かな語りに顔を背け、ノヴァは絞り出すように言った。
「違うもんか・・・・違うはず無いだろ!」
そのまま彼女は自分の右腕に手を伸ばし、いかなる時も外される事の無かったバンダナが解かれていった。
「ほら、ね!」
自分の右腕をローザに突き出し、彼女をなだめようと必死に説得を始めた。
だが、彼女自身、何のための何の説得なのかが分からなくなっていた。
そんな困惑したノヴァにローザはそっと微笑んだ。
「サヨウナラ」
ローザの身体全てに異変が起こった。
成人女性の艶やかな肢体へと急成長し、背中が妙に盛りあがったと思った瞬間、白い翼が形成され、三度ローザ=サウザンドは闇の夜に舞い上がった。
「ローザ・・・・」
その日より、市街にサウザンドが現れる事はなかった。

(第一話 『トウソウする者達』 了)



 

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