【八十神の舞】神々の舞う地、神代市を舞台につむがれる物語。

八十神の舞トップ  > 第四話『勝利の果てに』

2009年09月02日

【ANGELUS】第四話『勝利の果てに』

『ママ……
ごめんなさい……
フィニーが変な事を言ったから……
フィニーがママになってなんて言ったから……
ごめんなさい!ごめんなさい!』
泣いて謝るフィニーを見ながら、あたし、東 飛鳥は夢と言う闇に足から喰われていた…
そして、彼女を慰める事もせず、ただ一点、闇の中に現れつつある小さな光を見つめていた。
『アスカァァァァァァァァァァッ!』
光は閃光となり、あたしに手をのばす人の姿、ルシェールの姿となっていた。
彼は必死に手をのばし、あたしに近づいてくる。
いつもは見せない、焦りと悔恨の形相を浮かべて…
『くそっ!』
一つ吐き出すと、背中から十二条の光の筋が現れ、黄金の翼へと姿を変える。
さらに素早く、文字どおり光の速さとなり、あたしが手をのばせば届く所まで近づいた。
しかし、それに気付きはしたが、あたしは手をのばす事無く、闇の中へと飲み込まれてしまった。
あたしの意識が闇の中に広がっていく…
この闇はあたしの夢の世界…
全てがあたしの思い通りになってしまう…
だから、ここが現実、ここでみる夢は現実…
夢は現実の続きなのだから……
……………………!
なにか聞こえてくる…
……これは、ルーとフィニーの声……
『どうしたと言うのだ、フィニー!
飛鳥に……話したのか?』
なにを?
『パパは……ママを護ろうとしたんだよね!
巻き込みたくなかったんだよね!』
なにに?
『そうだ……!
ママ?
飛鳥を〈ママ〉と呼んだのか?』
呼んではいけないの?
『うん……
だって、フィニー達のママ……死んじゃったんだよね!
フィニーは覚えてるけど、カサンドラも、サラも、フォースも、フェイも、シックスも 、ベルも知らないんだよ!
……ママはママそっくりなんだもん……』
あたしが誰にそっくりなの?
『……すまない……
私も母を幼い頃に失った……
その辛さを……
お前達にだけはさせたくないと思っていたのに……』
ルーもお母さんがいないまま育ったんだ……
『パパ!ママはどうなるの?』
別にどうにもなってないわ……
『フィニー!
こうなってしまえばお前だけが頼りになる……
多分、飛鳥は過去の世界をこの夢の世界に構築するだろう。
現実世界と全く同じ世界……
そこには、過去に存在した人物が普通に生活している。何事もない、現実世界と同じよ うに……』
へぇ……
あたしが見ているこの世界……
そう言う世界なんだ……
『フィニーはどうすればいいの!』
この世界……
あたしの過去の世界……
でも、見た覚えがないような……あるような……
『この世界に他人が入り込むと、その世界の住人となってしまうのだ。
ただし、その世界に存在していた人物に限定されるのだ。
多分、この世界に私は存在する……
なぜなら、その世界は彼女の抑圧された過去、いつも見たいと心の奥底で思っている過 去の世界が構築されるからだ。』
あたし、東 飛鳥?
『フィニー、わかんないよぉ!』
そうよ、あたしはあたし……
『簡単に言えば、飛鳥が体験したその時代に存在しなければ自由に行動できるのだ!』
そして……ここは、フェミニーア……
『しかし、現実世界の現在と言う時間まで夢の世界の時間が流れると、フィニーが生まれ てしまう。
まずは、俺を見つけるんだ!
俺を見つけて、俺達がする事を阻止するんだ!
もうすでに俺はあの時代の人間になろうとしている。
時間がないんだ……』
王都中立学園で勉強してた……
『でも、フィニーは昔のパパを知らないよぉ!』
誰も、友達いなかったけど……
『黒衣のウィルザーをさがせ……』
黒衣をまとった赤毛の剣士様……
『ウィルザーを?』
あたしの、憧れの人……

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Angel-Knights

神暦0998 勝利の果てに

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《1》

次に気付いたとき、フィニーは森の中に座っていたの。
フィニーは森って初めて見たけど、すぐそばに街道が走っていたから暗くもないし、恐くもなかったの。
でも、一人だったからちょっと寂しかったかな……
うん、やっぱり一人はやだな!街道に出よう。そして……どうしよう???
パパはママの夢の中って言ってたけど、ちょっと現実感がありすぎるのよね。
もし、ここで死んでしまうような事があったら……現実世界じゃどうなっちゃうのかな?
なぁ~んて考えてたら、フィニーの前を馬車が通り過ぎたの。
フィニーは慌てて、飛び出したの。でも……
「いっちゃった」
せっかく人に会えたと思ったのに、馬車はフィニーに気付く事無く街道を北に上って行っちゃった。
……あぁ、だったら北に人がいるんだ!
フィニーは喜び勇んで馬車をてくてく追いかけたわ。
そしたら、10分も歩かないうちに馬車に追いついたの。
馬車は黒衣の男達に襲われていたわ……あり?
パパは『黒衣のウィルザーをさがせ!』とか言ってたような……
つまり、あの集団にウィルザーがいるのね!
随分早く見つける事ができたわ!フィニーえらいっっ!
でも、夢の中でも人生ままならないのよね、これが……
「きゃぁぁぁぁっ!」
馬車から一人の女の人が引きずり出された。
あれは……ママ!
引きずり出されたママは口を押さえられ、男の短刀がママの喉を狙ったっ……て、ママ、ここで死んじゃうの?
「ん~ん~!」
必死に抵抗し、何かを懇願するママ。
それを助けようとフィニーは飛び出したんだけど……
あ、足が遅い……
そして、ママはフィニーではない誰かに助けられたの。
「でかした!香憐!」
フィニーじゃない誰か……つまり、もう一人の救援者が現れたの。
そう、彼女は長く蒼い髪を振り乱し、馬車の天井を突き破って現れたわ。
「何者!」
男達が天を見上げた瞬間、天に舞った彼女は突然爆発……って?
えぇ?
なんで?なんで、剣の鞘が天に舞ってるの?
フィニー同様、驚いちゃった男達は、これまたいつの間にか苦悶の表情とともにバタバタ倒れていったわ。
しかも、ママまで爆発したぁ!
……な、なんでママとは似ても似つかない顔になってるの。
どうして?
……ま、まさかとは思うけど、幻術?
「物体に姿を投影させる『影似符』!完成ね!!」
蒼い長髪の女の人がそう言って、前髪をかきあげたときに見えたの。
今度こそ本当のママだ!
フィニーがバタバタ近づいて、飛びつこうとしたその時、華憐と呼ばれたもう一人の女の人がフィニーを遮って怒りだしたんだ。
「完成ね!!ぢゃないですよ!
あたくしは死ぬ思いをしたんですからね!」
でも、ママはそれを一笑にふして(へへぇっ!すごい言葉を知ってるでしょ!)こう言ったわ。
「香憐、あたし付きの女官になった運命を呪うのね!」
どうやら香憐って女は、ママの世話係みたいね!
まぁ、龍国のお姫様なんだから当然かな。
「弥生様!
あたくしを選んだのは貴女です!何が運命ですか……」
あらぁ……世話係がママに文句を言ってる。
スゴイ事す……る?
あり?
『弥生』って、ママのお姉さんよね?
ま、またはずれ?
そ、そうよねぇ~……人生そんなに甘くない!
まぁ、生まれて3ヶ月のフィニーが人生を語るのもおかしいけど……
そしてね、ブツブツいいながら香憐は急に振り返り、フィニーを……え?
どん!とはね飛ばしたぁ?
「ちょ、ちょっと何やってるのよ!」
「えぇぇぇぇぇっ!あたくしのせいですかぁ?
もとはと言えば弥生様がぁ……」
「うぅ……ケンカはいいからフィニーを起こしてようぅ……」
フィニーの願いもむなしくケンカは延々と続いて、その場を移動したのは空が朱に染まってからだったの。
「へぇ、パパとママがこの国の何処かにねぇ~」
フィニーを背負ってくれたのはママのお姉さん。とても安心する、温かい背中……
「随分、あての無い旅ですよね。こんなに小さいのに…」
一応、二人には両親を訪ねて……とはなしたの。でも、ここまで言ったら両親の名前を聞かれそう……
「で?両親の名前は?」
あ、やっぱり……
うぅ~ん!
まさか、『貴女の妹と黒衣のウィルザーですぅ』とは言えないし……
あり?
ママのお姉さんがいるってことは……ここって、フェミニーア?
パパが言ってた!ママのお姉さんは昔、パパとフェミニーアの王都中立学園で一緒に勉強してたって……
そして、ママはフィニーの本当のママそっくり!
ママの双子のお姉さん。
本当のママって……
龍神 弥生……
フィニーは思いがけず本当のママって確信できる女の人に会って……夢に取り込まれそうになったの!
「どうしたの?」
「眠っちゃったみたいですよ。」
夢の中で眠るなんておかしいね。とっても眠たいや……
ユメ?
そう、夢なのよ!このママも本物じゃない!
ここに来た本当の目的!
ママを助ける為にママの夢の中に…………
助けなきゃ!
「ママの名前は、龍神 飛鳥、もしかしたら東 飛鳥かもしれない!」
眠っていたと思っていたフィニーが急に耳元で叫んだんだから、ママ……弥生姫は驚いたんだ。
でも、それだけじゃないとは思うけど……
「で……で?お父さんの名前は?」
声が震えてる。やっぱり知ってたんだ。……ゴメン!時間がないの……ゴメンナサイ……
「パパは黒い服を着たウィルザー……」
「そ、か……」
弥生姫は小さくそれだけを言うと、歩調を強めて歩きだした。
そして、太陽が完全にしずんじゃった頃、フェミニーアの都の門をくぐり、王都中立学園に着いたの。


《2》

「くそっ!ナラがいない!あいつ、やっぱり……」
悠太郎が辺り構わずナラを探している。
確かに奴は俺と同じウェンデル人だ。しかも、飛鳥が目覚めないこの状況での失踪…
A-Kと思われても仕方がない。
「おい、ウィルザー!テメェもグルなのか?」
面倒な事だ……
俺は飛鳥などどうでもいいのだ。A-Kさえ壊滅させる事ができれば……
昨日取り逃がしたディックは、どうやら国に帰る前に力尽きた様だし……
あと、6人……
『お前を含めれば7人だ』
封印してあるマックスを殺しておくか……
即席の封印だからいつ復活するかわからん。
「おい、なに一人でブツブツ言ってやがる。ナラは絶対間者だぞ。」
やれやれ……
飛鳥は悠太郎の事を馬鹿馬鹿と言っていたが、その通りのようだ。
「だから今から捜し出す、か?
奴がもし間者なら、既にこの国にはいないだろう。
そんな事よりも、お客の相手をする用意をすべきだな……
次に来るのはA-Kの大軍だ……」
そう、残っている奴らはしたたかだからな……
特にマリアに与えた魔導具『クルス』が問題だ。
神聖魔術専用の増幅器……マリアの能力を最大限に引き出してしまう。
しかも、マリアのローブに縫い込んだ『呪』の量は二倍。
多少の剣撃を弾き返してしまう。
「客ってな誰の事だ!ウィルザー!返事をしやがれっ!」

「ははははははっ!」
悠太郎のおかげではない。ただ忘れていただけだ……
俺の手元に光輝剣が返ってきている……
あのA-Kが何を思って俺に渡したのかはわからんが、A-K最強の武器がこの手にある以上、ディックの時のような失態はない!
「テメェ、なに一人で納得してるんだ!」
悠太郎の困惑など俺の知ったところではない。
もうすぐ次のA-Kが来る。
弥生の敵が自らやって来るのだ……
「ウィルザー殿、悠太郎、今報告が入った。
女司祭に率いられたウェンデルの軍隊が龍背山北の麓に現れたそうだ。」
慌てた様子も見せず、事務的いや機械的と言ったほうがいいかも知れない。
武蔵が報告してきた。
この男だけは俺にも分からない。
いや、自分の事でさえ持て余しているのだ。他人の事などどうでも良い。
武蔵の報告に、俺は間髪入れずに答えた。
「誰が来ようと……A-Kは殺す!」
いま、戦争らしい戦争が始まろうとしている。
A-Kさえ全滅させる事ができればいい。
俺に失うモノは何もないのだから………


《3》

「つまりこういう事?
お母さんは記憶を無くしちゃった上に別人になって生活している、と……」
ママにホントの事を混ぜて、フィニーがここにいる理由を話したの。
そしたら、ウィルザーに合わせるって言ってきたんだ……
でも、ここでママ達を会わせちゃったらフィニーは生まれるのかな?
あ、ここは昔あった『ジジツ』なんだ。
夢の世界なんだから現実には関係ないよね。
フィニーは二つ返事ってやつで『ありがとう』っていっちゃった。
パパも飛鳥ママもこれで助かるんだから……
夕食が終わって、ウィルザーの居るウェンデル寮にフィニー達三人は行ったの。
そしたら、弥生ママが急にそわそわしだしたの。
多分フィニーが思うには、パパに会うからだと思う。
むぅ~何だかワクワクする……あり?
でも、どうして飛鳥ママが居ないのにパパに会いに行く事ができるんだろ?
「着いたよ、フィニー。」
ウェンデル寮に着いた事だし、パパに聞けばいっか!
フィニーはうなずいて弥生ママの後ろについて行ったんだ。
「龍国第一王女、龍神弥生だ!貴国が第一王子、ウィルザー=グランバード殿にお会いし たい。」
でも、出てきたのは仮面をつけた黒衣の男の人だった。
……あり?パパ?
「何用だ?
今日はもう遅い、正式な謁見を申し込みたいなら明日になされよ。」
でも、弥生ママは引き下がらなかったわ。
「正式ではない故、こんな時刻に私自らここにやってきたのだ。」
「ふ……なるほど。」
何がなるほどなのかフィニーには分からなかったけど、仮面の人はフィニー達三人をウィルザーの元に通してくれたわ。
仮面の人立ち会いという条件つきだったけどね。
これは後から聞いた話しなんだけど、この仮面の人ってウィルザーの影らしいの。
内密と言う事で人払いをしてくれたけれど、最強の護衛が残ったって事なのかな?
「お子様連れで何の用なのですか?弥生殿。」
「自分の娘を前にして言いたい事はそれだけ?」
ウィルザーはゆったりとしてるのに、弥生ママは怒ってるよ……
ど、どぉなるのかな……
「私に娘などいませんよ。」
あ、やっぱり……
飛鳥ママと一緒で忘れてるんだ。
「ちょっと!無責任な事言わないでよ!」
弥生ママは怒鳴ったけど、ウィルザーは平然とこう答えたの。
「私と貴女の娘だとでも言うんですか?」
す、するどい……
「私にそんな覚えはありませんよ。」
いや、今はそうかもしれないけど……
「ふざけんじゃないわよ!」
弥生ママって……コワイ……じゃ、なくてぇ!
弥生ママはそのままフィニーと華憐を置いて外にドカドカ出ていっちゃったの。
フィニー達は慌てて追って出ようとしたわ。
でも、フィニーは一度だけ振り返ったの。
ウィルザーにではなく、彼のそばにたたずむ黒衣の仮面剣士に……
あの人が……パパなの?
でも、ウィルザーじゃない……
子供のフィニーじゃ分からないよ……
もっと、大人にならなきゃ……
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!ムカツク野郎っ!」
外に出たとたん地団太を踏む弥生ママ……
フィニーと華憐で宥めようと近寄ろうとしたら追い越されたの。
黒衣の仮面剣士に……
「弥生殿。」
「な、な、なによ!」
あり?
何だかさっきと違うリアクションのような……
「先ほどの娘を私に預けてもらえないか?」
仮面の人がフィニーを?
「ウィルザーが自分の娘だって認めたのね。」
あ、そう言う意味かも知れないんだ……
「いや、フィニーは……」
あり?
フィニーの名前を……って事は!
「私の娘だ!」
この台詞が仮面の人から発せられたとき……
世界が歪んだ!
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


《4》

3対50……
兵力差は余りに開きすぎている。
もっとも、俺が光輝剣を手にしている限りBランクのA-Kが何人来ようと問題ない。
問題があるとすればA-K No.Ⅴ 力天使 マリア=ホリルゥードの神聖魔法増幅器『クルス』……
A-K No.Ⅳ バーバラ=クライバンの星獣召喚最小魔法陣『星刻のコイン』。
この二つだろう。
クルスでBランクの能力を上昇させたうえ、星獣が群れを成して襲ってきたら……
俺はともかく、悠太郎と武蔵に勝ち目がない。
やはり、初めに頭を潰しておくしかないか。
「おい、ウィルザー!来やがったぜ!」
ここは龍背山山頂……
少ない人数で軍隊を相手にするには山と言う地形を利用した奇襲作戦しかない。
厄介な事だ……
そんな事を思いながら、人を避ける傾向がある俺自身、何故か武蔵に疑問を投げかけていた。
「よく俺の出陣が認められたな。
俺は龍王に好感は持たれていないはずだが?
それとも……龍王の意志を曲げるだけの権限を持っているのか?」
それに奴はさらりと答えた。
「龍牙衆が全滅した今、戦力的不利なら軟禁者も使えと言う事だ。
似た者同士、兄弟には苦労するな……」

仮面のために表情は伺い知れないが、何だ?最後の言葉は?
俺に兄弟など………いない?
記憶が曖昧だ!
俺は……誰だ?
ウィルザー=グランバード、A-K No.Ⅰ 熾天使ウィルザーだ。
ここまでは問題ない。
今、何をしている?
弥生の敵をうつため、飛鳥がいまだ目覚めぬ龍王城にA-Kを攻め入らせぬ為に……戦うのだ!
そうだ!
目を閉じれば見える。
弥生が斬殺された光景が……
聞こえる……
全てのA-Kを殺せと……
『オマエモフクメテナ……』
そう……今は何も考えるな。
あと、6人だ!
『アト、7人ダ!』
「武蔵、悠太郎……
奴らをここに引きつけろ。マリアとバーバラは俺が殺す!
……それと、初めてお前達に物を頼む。
……死ぬな!」
それだけ言うと、俺は木々に紛れてA-Kどもの背後を目指した。
俺が奴ら二人を殺せば武蔵達の戦いが楽になる。
……らしくないな。
何故、こいつらに感傷的にならなくてはならないんだ?
……どうでもいいか、そんな事。
壊れた人間がやるべき事は、どう剣を振るか、どう殺すか……
今はそれだけでいい。
今の俺が望むのは、止めどない怒りのはけ口を奴らに見出だす事なのだから……


《5》

ぐるぐると世界が歪んでゆく。
香憐さんは消えて歪んだ線だけの世界に三人だけになったの。
フィニーとパパと……飛鳥ママ?
あり?
さっきは弥生ママと一緒にいたのに……
フィニーがパパに何故って聞いたら話しをそらされちゃった。
「どうやらまた時代が変わるようだ。
早くしないと飛鳥の心が死んでしまう。
そうなったら………俺は………」
違う。フィニーの声が聞こえていないんだ!
どうしよう………このままじゃフィニーはどうしたらいいか分からないよ。
フィニーは……
フィニーは……
フィニーは……
フィニーは……

大人にならなきゃいけないんだ!
そう、フィニーが……いえ、私がそう思ったとき歪んだ世界が一つ一つ直線になりだした。
新しい世界に出る。
天に向かって走る直線の数々、それがどんどん丸みを帯びはじめる。
柱だ……
フィニー……じゃない。
私が今、現実世界でいるところの上階……
ウェンデル城の表、ライトパレス……
私がいつも行きたくても行けなかった場所。
パパが話してくれたとおりね。
下層と違って、私の目を刺すまばゆい明かり。
華やかな絨毯に彩られた通路。
ここに飛鳥ママがいる……
いそがなきゃ!
あり?でも、パパもいなくなっちゃったしどうすれば……

王の間!
ん~なんとなくだけど、私は直感に従った。
あちこち迷いながらも王の間に向かって走り抜けるわたし。
はやくしなければ飛鳥ママの心が死んでしまう。
………?
私はふと立ち止まった。
確か………この世界で私が生まれると、私はこの世界の住人になってしまうはず………ここがウェンデル城ライトパレスだとすれば、弥生ママが入城した頃だと思う。
だとすれば、私達はママのお腹にいるハズ……
なら、何故わたしはここにいる?
おかしい!
「パパ、私達にも秘密があるのね……」
うなだれ、呟いた私の耳に悲鳴にも似た男の声が飛び込んできた。
「弥生ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
パパ?
パパだ!
弾かれるように頭を挙げ、きょろきょろと声のした方向を私はうかがった。
………わ、分からない………
声が右と左と……両方から聞こえた気がする……
あ゛あ゛あ゛あ゛っ!
どうしたらいいか分からない私は、その場で頭を抱えてふるふる首を振った。
「おい、貴様!
王の間の前で何をやっとるか!」
突然目の前から呼び止められ我に返った私は自分の直感に何だか嬉しくなった。
一応目的の場所に着いてたのだから。

あ、もしかして前から聞こえてきたから分からなくなったんじゃ……
「んなわけないか!」
貴重な情報を与えてくれたA-K:Bランクのいかにも熱血系で根性と言う言葉の似合いそうな騎士君を無視し、王の間の扉を開けた。
「こら!お前のような娘の入るところではない!
さっさと出るの………だ。」
私だけではない。
騎士君も絶句していた。
十数人のA-Kに床へと押さえ込まれ、それに抵抗する………パパ!
そして、その眼前に広がる真紅の海と溢れ出す鉄臭い臭い。
たゆたう様にその中心に臥するのはママだった。
「マ……ママッッ!」
私は悟った。
ここでのママの死は、現実世界のママの死と同義である事を……
そして、飛鳥と言う人物は初めからいなかった。
飛鳥ママは弥生ママなんだ……
「ザマァねぇな!
あぁ?英雄君よぉぉっ!」
嫌らしい笑い声を響かせ、完全武装の男がパパの顔を蹴り飛ばした!
私はパパの呻きに思わず目を強く閉じた。
殴られる嫌な音とパパの呻きが続く。
そして、次にパパが強く呻いた瞬間、私は華美な絨毯を走り抜け、男の前に立ちふさがった。
「なんだ貴様は……」
男は三日月の様に口を歪ませ、私を睨みつけた。
多分、こんな表情を、人を殴る事に喜びを覚える狂喜の表情を見たら恐怖に押しつぶされそうななるだろう。
しかし、私に恐怖はなかった。
恐怖の前に、両親を助ける事が先に立っているのだ。
恐くない。
こんな奴、私が倒してやる!
そう、この時初めて私の姿が現実世界の姿、小さな女の子ではない女性の姿となっていた。
そして、私が戦いの意志を持ったとき、私の身体に光が集まり形を成した。
私達姉妹の戦いのための姿、身体の輪郭が反映してしまうぴったりとした闘衣、右腕に巻かれた魔力を帯びた帯、左腕に固定された三つの爪を有する飛爪獣牙と呼ばれる盾。そして、私達が私達である印、天使の翼を光の粒を舞わせはためかせた。
「パパとママは私が護る!」
刹那、世界は歪み、今までとは一変し、氷におおわれた世界に放り出された。


《6》

「いた……」
マリアとバーバラ、双方が司る軍勢に気付かれる事無く背後に回り込む事ができた。
光の刃を出さぬままの光輝剣を握り返し、俺は二人の背中を見つめた。
「マリアに……俺の裁きを……」
無音かつ軽やかに、剣より光を放出させ創り出した光の矢はマリアめがけて放たれた。
狙うはA-Kの源マテリアル、次の瞬間にはマリアのローブより発生する重魔法障壁ごと彼女の胸を貫いた。
「ア、アレ?」
「マ、マリアァァァッ!」
ここに、マリア=ホリルゥードと呼ばれた存在は消滅し、彼女の身体に集束する光とともに新たな天使が降り立った。
『我が名はザドキエル。
滅びゆく運命の者達よ……祈り、慈悲を求めよ。
それらが失われる前に……』
………天使?
そう、天使なんだ。
ザドキエルと名乗った天使はいっそう光を強め、天に飛び去った。
そして、俺は球=セフィラーが現れる瞬間を目撃する事となった。
輝く翼で身をまとい、リリィとディックが転生した球=セフィラーの遥か上空まで舞い上がると、大きく円を描く様に回転し、それが次第に小さくなる。
次の瞬間、飛鳥ではないが月が一つ増えていた。
「一体何が……」
天を睨みつけるバーバラの間合いに滑るように入り込んだ俺は、迷わず胸のマテリアルを狙い光輝剣を振り下ろした。
魔力を放出させる事により刃を成す光輝剣は、中和が不完全だった魔法障壁ごとバーバラの左腕を切り落とした。
『くぁぁっ!!』
俺達は同時に小さく悲鳴をあげた。
さすがはAランクのA-K。
俺がマテリアルを狙っている事を悟ったバーバラは、瞬間、左腕を胸の位置に構え、円舞を舞うように右に身を旋回させ俺に背を向ける様にかわしたのだ。
だが、それだけなら低ランクのA-Kでも出来る事だ。
バーバラは左腕を犠牲にかわした上、旋回の延長上にある俺の顔面に右の裏拳をヒットさせてきたのだ。
俺とバーバラは互いに後ろに飛び退き、間合いをとった。
「やるな、バーバラ……」
「ウ、ウィルザー様……」
俺は光輝剣を正中に構えるが、彼女は失われた左腕の傷を押さえもせず、残された右腕で口を覆っていた。
その瞳には悔恨の光が、その表情には恐れと悲しみが見て取れた。
俺は……バーバラがそんな顔を見せる理由を知っている。
「も、申し訳ございません……」
俺を前にして地に膝を着き、頭を下げる……
敵が俺である事を知らぬ筈がないだろうに……
俺はゆっくりと彼女に近づき、眼前で歩を止めた。
「わ、私は……」
哀願するような表情を見せるが、俺がその程度で心動かされるはずもなかった。
ヴゥン……
俺は右に握られた光輝剣に更に魔力を送り込み、バーバラの胸を貫いた。
「ウィルザー様っっ!」
彼女の瞳よりこぼれた涙よりはやく彼女は地に顔を埋めた。
そう、彼女は俺を好いていたのだ……


《7》

「これはっっ!」
三度、空間が揺らいだ後に現れた世界は、少しずつ闇が増えてゆく氷の世界そのものだった。
闇が増え、世界の端から崩れゆく世界……
私の吐く息は白く、大気は肌の露出した部分を容赦無く突き刺す。
「寒い……」
パパもママも見当たらない。
どういう事……
白い息?
突き刺す大気?
違う!
ここは、ママの心の中……
これは……心が死んでゆく兆候?
まずい!
ママが死んじゃう!
「そうだ……」
突然の声に私は辺りを見回し、最も信頼する人物、父、ルシェールの姿を探した。
世界の中心で氷に半身を埋める抱き合う男女の姿を見つけるのに刹那の時間も要さなかった。
「パパ!ママァッ!」
悲鳴にも似た悲痛な叫びをあげ、私は二人に駆け寄った。
「パパ!ママ!」
私はパパの肩をつかみ、返事が返ってくるまで激しく揺さぶった。
「フィニー、まだ生きているよ……
俺も……
飛鳥も……」
「パパぁ……」
私は安堵のため息とともに腰が砕け、その場にぺたんと座り込んでしまった。
「俺のせい……だな。」
「え?」
目からこぼれた涙を拭いながらパパを見上げると、沈痛な面持ちで飛鳥ママの髪を手で梳いていた。
「俺が彼女の夢に介入しなければこんな事には……」
「違う!」
私はパパが全てを言う前に否定した。
そう、夢の世界に長居させたのは私なんだ。
私さえ気を付けていれば、こんな事にはならなかったんだ!
うつむいた私の目から大粒の涙がこぼれ、パパはフィニーと一言だけ声を掛け……さほど長くない沈黙の後、パパは一つの決断を下した。
「封印された記憶を解き放つ……」


《8》

頭を失ったA-Kは脆いものだった。
所詮、人を超えた能力を持っていてもそれを扱う心がただ人と同じでは結果は同じという事か。
正面から武蔵と悠太郎、背後から俺。
俺達三人のの挟撃により、一人、また一人と光に包まれ、天使と姿を変え天に消えていった。
人が人を超える……
マテリアルはそれを与えてくれるが、人が人でなくなり、人間的な死を与えられない。
俺は力を求めた者の代償は大きい様な気がする。
いや、力を求めればそれ相応の代償を支払わなければならないのは道理なのかも知れないな。
自問自答を繰り返しながら剣を振り、気付けば龍背山に立つ者は俺達三人のみと……
いや、俺達三人と……バーバラの四人であった。
「バーバラ……お前、何故……」
俺の背後に立ち尽くすバーバラに俺は問うた。
そう、俺はバーバラの胸を確かに貫いた。
マテリアルを砕いた筈なのだ。
なら、ここにいるバーバラはいったい?
「幽霊でも見るような目つきですね、ウィルザー様……」
そう、俺は幽霊を見ている気分だった。
「ウィルザー様も私に負けない程のうっかり屋さんですね。」
バーバラは言うと、再生済みの左手で自分の腹部を指さした。
「私のマテリアルはここじゃないですか。」
俺はこの時、冷静な判断を下せないでいた。
「ならば再び貫くまでぇっ!」
俺はただバーバラを殺す事のみを思い、唸りをあげる光輝剣を彼女の腹部めがけて突きだした。
「貴様、何者だぁぁぁっ!」
バーバラの叫びとともに、彼女の上衣を突き破り一匹の龍が現れた。
「しまった!」
後悔するよりはやく、龍は俺の身体を絞めあげていた。
「星獣よ!星刻のコインより召喚されし獣よ!
ウィルザー様の名を騙る愚か者に天罰を与えるのだ!
さぁ、我が意に従い力を示せ!」
そう、俺は愚かにもバーバラの策にはまってしまった……?
ウィルザーの名を騙る?
馬鹿な!
ウィルザーは俺だ!
他の誰でもあるはずがない。
俺はウィルザー……
星刻の龍に身体の自由を奪われ、締めあげられる圧力で意識が持って行かれそうな状況の中、俺は自分の記憶が曖昧である事を思い出していた。
更に、ウェンデルでは人の精神をコントロールする術が発達している事も……
俺は、何者なんだ……
「さぁ、云え!
ウィルザー様の名を騙り、何をたくらんでいる!
貴様もウェンデルの人間ならその罪がどの程度のものなのか知らぬ訳でも無かろう!」
ピシッ!
今、俺の心にひびが入る音が聞こえた気がした。
俺はバーバラを見つめ、思った。
俺は勝利の先に何を見いだそうとしていたのだろう。
曖昧な記憶に振り回され、ただ暴れていただけなんじゃないのか?
ピシシッ!
また……
刹那、龍が砕けた。
「なっ……」
バーバラは驚きのあまり声を立てていたが、彼女よりも驚いていたのは俺の方だった。
気のせい………か………
俺は崩れ落ち、その場に膝を着いた。
「くっ……まさか、光輝剣の魔力に耐えられないなんて……」
光輝剣?
この時、俺は光輝剣より魔力の刃が放出され続けていた事に気付いた。
ふ……気のせいなら、問題ない!
そして、再び立ち上がり、構え、刃をバーバラに向けた。
向けたはいいが、彼女のマテリアルが何処に融合しているかが問題だった。
上衣はさっきのカウンターで破れ、前がはだけた状態だ。
見た限り、体幹に存在は認められない。
予想として考えられる場所は頭部。
中でも常に長い髪で覆い隠している右眼!
確信はなかったが、俺はバーバラの右眼めがけ三度目の突きを繰り出した。
「しまった!
星刻のコインよ!我が意に従い……」
バーバラの詠唱は完成する事はなかった。
そして光が現れた。
バーバラという存在は消え、一人の天使がそこにいた。
その姿は女性……
両性具有の存在である天使において珍しい、完全な女性として現れた天使であった。
『我が名はガブリエル。
霊魂と肉体の狭間に揺れし聖霊を導きし大天使なり!
生命の燭台に火を灯し、約束された大地にて救世主を呼び覚まさん。』
一瞬の目映き閃光とともに、天に四つ目の球=セフィラーが出現した。
その輝きは白く、蒼一色の空に映え煌めいていた。
天を見上げ、俺は思った。
『勝利の果てに得たのは、ウィルザーとしての自我の消滅を先送りするための踏み台ではないか』と……


《9》

「……おはよう。」
身体の節々が痛い。
周りは何だか分からないけど騒がしい。
えっと……あたし、どうしたんだっけ?
「弥生!」
ふぅ……
あたしに考える暇を与えてくれないのか。
父親である龍王、龍神 武龍が武蔵と悠太郎を連れ、扉を蹴破る様に勢いよくあたしの部屋に入ってきた。
「父さま……一体何事ですか。」
きしきし絡んだ髪をかきあげ、あたしはあきれた口調で龍王に訊ねた。
「何事って、お前に何があったのか分かってるのか?」
あたしの立場を考えずに、悠太郎の無礼千万な物言い……
当然、周りの人間が馬鹿を叱責しようと勢いよく悠太郎を向いたのだが、それより速くあたしの投げた漆塗りの盆が馬鹿の顔面を直撃していた。
「男は出て行きなさい。当然、父さまも……」
あたしの一言に龍王は抗議の声をあげたが、次のあたしの言葉に大人しく従った。
「着替えるんです。出て行って下さい。」
………ふぅ。
よく思い出してみよう。
あたし、どうしたんだっけ?
『香憐に聞いてみたら?』
そうだ、華憐に聞いてみればいいんだ!
「香憐を呼びなさい。」
手を叩き、控えていた侍女を呼んだが、彼女達は困惑の表情を見せながらあたしに言った。
「あ、あの、華憐侍従長は……」
「行方不明?」
あたしは思わず声をあげていた。
「はい、ウェンデルから無事に戻られたのは弥生様だけで……」
……そうだった。
船にも乗っていなかった……
「ごめん……香憐の事を忘れていたなんて、どうかしてるね。」
そうだ、どうかしている。
目が覚めてから何処かおかしい。
誰かあたしの事を知ってる人はいないの?
ふかふかすぎるベッドに身を埋め、虚ろに天井を見上げる。
そんなあたしを心配そうに見守る侍女達は、あたしの事を何も知らない。
疲れた……
姫を演じる事に疲れた……
「ねぇ……」
あたしは侍女を呼び、一言訊ねた。
「あたし、変わった?」
その問いの返答は世辞でしかなかった。
『元々お転婆だったんだから仕方無いか……』
元々お転婆だったんだから仕方無いか……
「着替えます。」
がばと起き上がり、絨毯の敷かれた床に立ち上がったとき、自分の身に起きた異変に気付いた。
「ここに誰かいる……」
優しく下腹部をさすり、確信した。
あたしのおなかに新しい命が宿っていることに……

《勝利の果てに 完》



 

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