【八十神の舞】神々の舞う地、神代市を舞台につむがれる物語。

八十神の舞トップ >  小説本編 , 第一話幕間『イニシエーション』 , ANGELUS-another-

第1・1/2話『イニシエーション』

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Angel-Knights
-another-

第1・1/2話  イニシエーション

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「おめでとう。
明日のイニシエーションが済めば二人は〈Angel-Knights=A-K〉の一員だ。」
王の代行として王座に座するウェンデル国第一王位継承者、〈最強〉と〈天才〉の名を欲しいままにした〈魔導剣士ウィルザー〉の言葉である。
しかしその口調には何の感慨も感じられず、事務的な物であった。
『はっ、有り難き幸せ・・・・』
声を揃えてひざまずく話題の二人・・・・
〈サウザンド〉を追い払った〈ハンター〉、〈ノヴァ=ディ=ドゥーディ〉と〈ナラ=ツインスター〉である。
正確にはサウザンド自身がこの地を去ったのだが、ノヴァはサウザンドを捜すべく、現在の自分に不満を抱いていたナラは自分を変えるべく、A-Kを利用しようとしていた。
「では、イニシエーションの時に会おう・・・・」
その言葉を最後に、二人は王の間を退出した。
その直後、彼らと入れ替わるように第二王位継承権の所有者、〈ミリアンナ=グランロック〉が王の間に現れた。
「早かったな・・・・
一時間の遅刻だ。
まぁ、君の遅刻癖は今に始まった事ではなかったな・・・・
報告を聞こう。」
「はい。
単刀直入に言いますわぁ。
〈ミカエル〉とぉ〈リリス〉の連絡がぁ途絶えましたぁ。
最悪の場合ぃ、ペルソナの書き換えが行われた可能性がありますぅ。」
A-Kにとって、事は重大であった。
世界再生を掲げるA-Kにとって、この二人は欠かす事のできないパーツなのだ。
それより何より、A-Kの誰もが知るところの〈スーパールーズ〉、〈世界が滅びても十日は気付かない〉と噂されるミリアンナが、たった一時間の遅刻で現れたのだ。
事は重大だった。
同時刻・・・・
ウェンデル城最下層、〈レフトパレス〉の〈シャマインエリア〉と呼ばれる深淵なる闇の大空洞内部。
その中心より天に向かって生える一本のガラス管。
羊水に満たされたそこにたゆたう人の形を持たぬ男・・・・
〈A-K-L〉、通称〈レフト〉を統括する〈闇の熾天使ルシェール〉である。
彼は力を失っていた・・・・
いや、元々そんな物など無かったのかも知れない。
虚ろに見つめる闇がその疑問の答であった。
彼は得られる筈の無い力を欲し、結果自分の肉体を失った。
いや、奪われたと言った方が正確かも知れない。
彼自らがコピーした〈マテリアル〉のオリジナル、〈アークL〉と呼ばれる忌まわしき前史民族の意識によって・・・・
全てのマテリアルには意識が宿る。
ただ、複製されたそれらが前史民族のそれであるかは定かではない。
そのせいか、マテリアルに適合しなかった場合、マテリアルが砕かれた場合に自分の意識が飲み込まれ、肉体がマテリアルに最も適したモノへと変化するのだ。
・・・・ルシェールは運が良かった。
アークLに全てを喰われる前に自らの意識を切り離す事に成功したのだ。
しかし、肉体の無い人の精神は不安定すぎた。
よりしろとなるべき肉体が必要なのだ。
「パパ・・・・」
人の形をしていない肉体の浮かぶガラス管に語りかける少女が一人・・・・
年の頃は15、6。
彼女の肢体のみで言えば、女性のそれへと発達していた。
彼の七人いる娘の一人、長女〈フィニー〉であった。
「パパ、リリスを殺したよ・・・・
代わりに〈フェイ〉がリリスになってる。
これで良かったんだよね・・・・」
しかし、肉塊の父は何も答えなかった・・・・
「パパ・・・・夢で会おうね。」
彼女はガラス管に額をあて、静かに目を閉じた・・・・
唯一父と会話のできる精神世界に行くために。

☆   ★   ☆

「へぇ・・・・
オバサン、今すれ違った方を知ってるかい?」
ナラ=ツインスターが問いかけた人物・・・・断っておくが決してオバサンと呼ばれるような年齢でも、彼の叔母でもない。
何処からみても二十歳前後の女性である。
冷たい瞳と右頬についた醜い爪痕が彼女を年上にみせるかも知れないが、所詮それでも二つ三つ・・・・その呼び名を甘んじて受ける女性はそのことを既にあきらめているのだ。
ハンター頭からA-Kへと肩書きが代わっても、彼女にとってそれはどうでも良い事だった。
今日も彼女は誰でもない存在なのだから・・・・
ノヴァ=ディ=ドゥーディ・・・・
彼女の記憶の手がかりと最愛の妹の手掛かりはようとして知れなかった。
いや、この直後、ミリアンナの侍従に出会った事で記憶の一片を見つける事ができた。
「カレン様!
戻ってこられたんですね!」
突然現れた侍従に抱きつかれるが、慌てた様子を一つも見せる事なくこの侍従の腕を解いた。
「人違いだろう・・・・」
ただ一言言い放ち、その場を去ろうとした。
「済みません・・・・
以前、街で暴漢から助けて下さった〈カレン=ホウリュウ〉様そっくりだったものですから・・・・」
その言葉に反応したのはノヴァではなく、ナラの方であった。
「待ちなよオバサン。」
ナラはノヴァにこの侍従と向き合わせようと、彼女の右腕をぐいとつかんだ。
「放せ。放さぬならお前の腕を切り落とす。」
抑揚の無い平坦な語り口・・・・最愛の妹を失った事が影響しているのだ。
言われて手を放すナラ。
先日の戦いで懲りていると言う事か。慌ててぱたぱたと手を振り宥めにかかる。
「ちょっと、オバサン。
オバサンって、記憶が無いって話しじゃないか。
気にならないのかい?」
「ない。」
振り返り、一言言うと歩きだそうとした。
しかし、何かを思い出したように立ち止まり、言葉を続けた。
「加えて言うなら、カレン=ホウリュウとは〈龍国〉系の名前だ。
あたしのこの姿を見ろ。ウェンデル人だ。
カレンなど・・・・知らない。」
言うと彼女は再び静かに歩きだした。
彼女の言いたい事はこうである。
赤毛にエメラルドの瞳・・・・それがウェンデル人の特徴である。
龍国人のダークブルーの髪にルビーの様な真紅の瞳とは違うと言いたいのだ。
そして彼女は三度歩きだした。
二度と振り返る事無く。
「やれやれ、あのオバサンにも困ったもんだね。
意地になっているのか、過去に興味がないのか・・・・」
そう、彼女にとって過去はどうでも良い事。
いま生きている現在が全てである、そう彼女は考えているのだ。
「やれやれ、ボクも姉ちゃんと龍国に行きゃあよかったかな・・・・」
呟くと、はっと気付いたように頭を振るナラ。
目の前の嫌な物に向き合おうとせず、逃げ出してしまう。
彼はそんな自分を変えるためにここにいる事を忘れそうになっていた。
よし!と気を取り直し、ノヴァの後を追ったナラだったが、たった一つ忘れていた。
ノヴァの過去を知ってるであろう侍従の事が切りとられた様に記憶から無くなっていたのだった。
「あ、あの・・・・」
ぽつんと残された侍従は精一杯の自己主張をしようとしたが、言うほどにか細くなる彼女の声は二人に届く事はなかった。

☆   ★   ☆

ウェンデル城下層・・・・
フィニーらA-K-Lがいる大空洞の少し上の層にはウィルザーの研究室があった。
そしてそこに併設されている〈イニシエーションルーム〉。
マテリアルを融合させる儀式が行われる場所である。
もっとも、儀式と言うよりは実験を行うような部屋の作りになっていた。
「儀式ね・・・・
オバサンは知ってるかい?
マテリアルの融合に失敗した人間がどうなるか・・・・」
据え付けられたベットの端に座り、ナラは訊ねた。
しかし、当然のようにノヴァからの返事はなく・・・・
「なんでも化け物になるって噂だよ。」
ナラは構わず続け、そしてノヴァに対する禁句が彼の口から滑り出した。
「もしかして、〈ローザ〉って・・・・」
〈ローザ〉の名が出るや否や、壁を背に立っていた筈のノヴァがナラの胸ぐらを突き上げ、憤怒の表情で問うた。
「ローザがどうしたって?」
もちろん、その状態でナラに答える事ができるはずもなく、声を発するのもやっとであった。
「ちょっ・・・・オバサ・・・・」
ナラはあまりの苦しさにノヴァの腕を振り解こうと、彼女の手首を握りしめる。
「言え!ローザがどうしたんだ!」
しかし、さらに強く絞めあげられ、ナラの顔色は紅から蒼へと変わっていった。
「はなしてぇ・・・・よぉっ!」
落ちそうになる瞬間、烈光が薄暗かったこの部屋を白一色に変えた。
ノヴァはナラを放し、目を押さえ、言い様の無い鋭い刺激に悲鳴をあげた。
激しい光に目を灼かれ、一時的に光を失ったのだ。
「まったく・・・・疲れるオバサンだよ・・・・」
それだけ呟くとノヴァから離れ、激しくせき込んだのだった。

☆   ★   ☆

「この女・・・・既に体内にマテリアルを持っている!」
イニシエーションとは名ばかり。
マテリアル適合実験が始まった。
そう、数々のA-Kが誕生しているなか、名を持つ強力なA-Kである〈ARK〉は数人しか存在しない。
マテリアルはまだ実験段階なのだ。
「まさか、天然の?」
「そう、龍国人だ。」
「まさか、この姿はどう見てもウェンデル人です!」
二人の白衣を着た男達は今までになかった状況に少々困惑していた。
「うむ・・・・多分混血か、あるいは・・・・」
「ウィルザー様の戯れ、ですか?」
一人は思いついたようにもう一人に訊ねたが、もう一人は淡々と作業をこなしていった。
「ん・・・・マテリアルの種類は〈マリアA〉となっているな。」
一人は好奇心の塊と言うべきか、事ある毎に驚きを見せていた。
「それに右腕の入れ墨・・・・間違いないでしょうね・・・・」
しかしもう一人は彼より年輩という事もあり、さして驚く様を見せず言った。
「我々の目を確かめようというわけか。」
「そんなトコでしょうね・・・・」
もう一人は大きくため息をつき、儀式の終了を宣言した。
「いいんですか?
マテリアルを融合させないまま終了して?」
一人は疑問をそのまま口に出し、もう一人に訊ねた。
「報告も必要ない。
ウィルザー様は考えあっての事だ。我々の口出しする事ではない。」
「・・・・」
この二人のやりとりの中、ノヴァは新しい肩書きを得た。
Angel-Knights、世界最強の騎士団団員と言う肩書きを・・・・
そして、最後のA-Kとしての、運命の歯車が廻りだした瞬間であった。

(ANGELUS-another- 『イニシエーション』 了)
 

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